最新記事

ファーウェイ

ポンペオの「Huaweiは嘘つき」発言を検証する

2019年5月25日(土)19時00分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

Huaweiが中国政府に服従した場合、何が起きるか?

「中国には国家情報法があるから政府の要求に応じないということなど、出来るはずがないだろう」という疑念を抱くのはもっともなことだ。

多くの日本人も「あの一党支配体制の中国共産党に抵抗できることなど、あり得るはずがないだろう!」と、きっと誰もが思っているにちがいない。実際、ほとんどすべての講演で類似の質問を受けるので、それは日本人にとっても根深い、そして「正当な」疑問であることだと理解している。

そこで、その疑問にお答えしよう。

たしかに中国には国家情報法があり、その第7条には「いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人及び組織を保護する」という条項がある。

もともと国家情報法は、「中国人の中に民主化を求めて政府転覆を図る者があちこちに潜んでいるので、そういう反政府分子を匿ってはならない」、つまり「密告せよ」ということが目的である。中国は1940年代の国民党と共産党との間の国共内戦の時代から、互いに騙し騙されあいながら、スパイを通して政権の争奪戦を展開してきたので、中華人民共和国誕生後も、ともかく反政府分子摘発のための密告文化が根深く、根深く、蔓延している国家だ。

この中で翻弄されてきた者でないと、この密告文化は理解できないかもしれないが、習近平政権に至っても「人民の声」が怖くてならない。だから徹底した監視社会を構築してきた。

これが「国家情報法」の基本ではあるが、仮に、海外の感覚で「国家情報法」を解釈し、Huaweiが中国政府に屈服したとしよう。

そのとき、何が起きるか――?

まずHuawei社員の燃えるような使命感はその瞬間に消失する。新しい半導体チップを命を賭けて設計していくぞというような意欲は無くなり、普通の国有企業の従業員のように、やる気が無くなり、真に意欲を持つ者はHuaweiから去って、もっと小さな民間企業に移るだろう。

つまり、この時点で中国は5Gにおいて世界の最先端から脱落し、ハイテク国家戦略「中国製造2025」の完成も絵に描いた餅になってしまうということである。

この構図が面白いのだ!

習近平国家主席は、このことに激しく苦悩しているだろう。

ここにこそ「中国の特色ある社会主義国家」の限界があることに気が付かなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの攻撃非難 対ロ「2次制裁

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中