ロシアのどす黒い影がウクライナのコメディアン大統領を脅かす
国民の期待を一身に集めるゼレンスキーだが政治家としての実力は未知数だ VALENTYN OGIRENKOーREUTERS
<決選投票直前に最有力候補のメールが流出――ロシアとの関係を示唆する内容は罠か真実か>
コメディアンで俳優で政治経験ゼロ。それでもここ数カ月、ウォロディミル・ゼレンスキーがウクライナ大統領選で先頭を走ってこられたのは、有権者が汚職まみれの既存の政治家に辟易していたからだ。
ところが21日の決選投票を前に、ゼレンスキーも清新とは言い難いことを示唆する情報が国内のマスコミをにぎわせた。
きっかけは、ウクライナのNGOミロトボレッツ・センターが入手・公表したゼレンスキーに関する大量のメールだ。それらは、ウクライナ東部で分離独立を目指す親ロシアの「ドネツク人民共和国」指導部とつながりのあるロシア治安部門高官が、ゼレンスキー陣営に資金提供をしようとしたことを示唆していた。ドネツク人民共和国は14年のウクライナ騒乱以降、親ロシア派武装勢力が独立を宣言し、実効支配している。「例のコメディアンのアクションのための予算が承認された」と書かれているメールもあった。
資金の一部が、ロシアの対ウクライナ政策の黒幕とされるウラジスラフ・スルコフ大統領補佐官と富豪コンスタンチン・マロフェーエフから流れていることを示すメールもあった。
「スルコフはクリミア併合を考案した1人だ」と、ロシアとウクライナ研究者のオルガ・ロートマンは指摘する。「マロフェーエフはクリミア併合を資金的に援助して、米オバマ政権の制裁対象になった。彼は親ロシア派武装勢力とロシア政府の仲介者でもある」
ロンドンに拠点を置く調査報道サイト「ザ・インサイダー」や、ウクライナの英字オンライン紙「ユーロマイダン・プレス」は、これらのメールは本物との見方を示している。
それでも揺るがぬ人気
その一方で、ミロトボレッツ・センターが流す情報には注意が必要だと、米ウッドロー・ウィルソン国際研究センターのロシア研究者ニーナ・ヤンコービッチは語る。同センターはNGOと称するが、ウクライナの政府機関との関係が深いことで知られる。「彼らの評判は芳しくない。やることに見境がなく、政治的動機が強い」
つまりこれらのメールは、ゼレンスキーが実際にロシアとつながっていることを示唆している可能性がある一方で、ハッキングされることを知りながらロシア(またはドネツク人民共和国)がゼレンスキーに送り付けて、彼の信用を落とそうとした可能性がある。