最新記事

日本経済

ニッポン人の議論は「のんきすぎ」でお話にならない 危機感もって「本質」を徹底的に追求せよ

2019年4月15日(月)17時50分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長) *東洋経済オンラインからの転載

〈のんきな「生産性」の議論〉
先日、厚生労働省と打ち合わせをしたときに、最低賃金を上げるのに備えて、その負担を軽減するために、企業に生産性を向上させるための努力を促す目的で補助金が用意されたという話を聞きました。しかし、せっかくの補助金なのに、申請された金額は用意された金額の半分以下だったそうです。やはり、小さい企業は現状のままでいいという思いが強く、生産性向上など考えていないようです。

経産省も厚労省もまったく思慮が足りていません。分析が浅すぎるのです。

決して公言はしないでしょうが、経産省は「日本企業は、お金さえあれば最先端技術を導入したいと思っている」という前提に立っているようですが、これは事実と反します。何度も言いますが、そもそも日本企業は規模が小さいので、仮に最先端技術を導入したとしても、十分に活用できるとは思えません。

厚労省は、「最低賃金の引き上げの影響を受ける企業は当然、生産性を向上したがる」と思っているようですが、この仮説も根本的に間違っています。

最低賃金で働いている人の割合が高い企業は、そもそもまともな経営がされていないか、または根本的に存続意義がないに等しい会社が多いので、自ら生産性を向上させようなどという殊勝な考えなど持ち合わせていません。補助金以前の問題です。

そういった企業は、声高に訴えれば政府が守ってくれるとわかっていますので、生産性向上という「余計」な仕事をするインセンティブはないのです。

のんきな「財政政策」と「金融政策」

〈のんきな「財政」の議論〉
財政の議論も浅いと思います。消費税の引き上げも対症療法でしかありません。

ご存じのように、日本は人口が多く、人材評価も高い割にGDPが少ないです。一方、社会保障の負担が大変重くなっています。そこで、年金の支給を減らしたり、医療費の自己負担を増やして、国の負担を減らすべきだという議論も交わされています。政府は消費税を上げて、税収を増やそうとしています。

しかし、私に言わせれば、この2つの方法は、夢のない、いかにも日本的な現実論にすぎません。この政策は、将来の負担をまかなうために、現状の日本経済が生み出している所得に何%のどういった税金をかけたら計算が合うか、という形で議論されています。あたかも、税率以外の他の変数は変えることができないという前提が置かれている印象です。

先述した通り、日本の財政の問題は支出の問題でもなければ、税率の問題でもありません。日本の財政の根本的な問題は、課税所得があまりにも少ないことに尽きます。しかし日本の議論では、「所得は増やすことができる」という事実があまりにも軽視されています。

消費税は上げるべきかもしれませんが、その前に付加価値を高め、その分だけ給料を上げて、上げた分の一部を税金として徴収すれば、それだけでかなりの規模の税収アップになります。

〈のんきな「量的緩和」の議論〉
経済学の教科書には、いくつかの「インフレの原因」が列挙されています。モノとサービスの需要が相対的に増えること、通貨供給量の増加、円安、財政出動は典型的なインフレ要因です。賃金が増えることも、大きな要因の1つです。

経済の状況が通常通りならば、財政出動と円安誘導と金融政策で経済は回復します。いわゆる、「インフレは日本を救う」論理です。

しかし、この議論には大きな盲点があります。それは、日本のように給料が減って、人口も減り、消費意欲が低下する高齢化社会では、需要が構造的に減るということです。もはや「通常」の状態ではありません。

このような状況で、中小企業問題や給料が少なすぎる問題を無視し、金融緩和や円安政策を進めても、通常の効果は出ません(もちろん、やらないよりはマシでしょうが)。給料を徹底的に上げていかないと、金融政策や財政だけでは通常の効果は期待できないのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:飲み代は上昇、雇用は減少 トランプ関税で

ワールド

ゼレンスキー氏、英仏と部隊派遣協議 「1カ月以内に

ワールド

トランプ氏の相互関税、一部発動 全輸入品に一律10

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、2週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏宇宙機関が開発した衛星が海底マッピングに成功
  • 4
    ユン韓国大統領がついに罷免、勝利したのは誰なのか?
  • 5
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 8
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 9
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 10
    地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のク…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 10
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中