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ニッポン人の議論は「のんきすぎ」でお話にならない 危機感もって「本質」を徹底的に追求せよ

2019年4月15日(月)17時50分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長) *東洋経済オンラインからの転載

本来「Low road capitalism」は、他に選択肢のない途上国がとるべき戦略です。先進国である日本は「High road capitalism」を目指すべきだったのです。なぜならば、「High road capitalism」こそが、人口減少・高齢化社会に対応可能な経済モデルだからです。

日本は「のんきな議論」が多すぎる

今回の記事にはあえて挑発的なタイトルをつけました。このタイトルは、ある意味、私のフラストレーションの表れかもしれません。

それは、今の日本で交わされている議論は日本経済についての現状検証があまりにも浅く、当然それによって、政策は本質を追求できていない、対症療法的なものになってしまっているという印象を強くもっているからです。

先週の「日本人の『教育改革論』がいつも的外れなワケ」でも若干触れましたが、人口減少にどう立ち向かうべきかについて、日本で行われている議論の多くは本当に幼稚です。今日本が直面している人口の激減は、誰がどう考えても、明治維新よりはるかに大変な事態で、対処の仕方を間違えれば日本経済に致命的なダメージを与えかねない一大事です。

それほど大変な状況に直面しているというのに、日本での議論はなんとも「のんき」で、危機感を覚えているようにはまったく思えません。こういう議論を聞いていると、正直、どうかしているのではないかとすら思います。

「のんきな議論」は、日本社会のありとあらゆる場面で見ることができます。

〈のんきな「競争力」の議論〉
先日あるところで、最低賃金を引き上げる重要性を訴えていたところ、「最低賃金を引き上げると日本の国際競争力が低下するからダメだ」と言われました。ちょっと考えるだけで、この指摘がいかに浅いかわかります。

日本の対GDP比輸出比率ランキングは世界133位です。輸出小国ですから、限られた分野以外では、別に国際的に激しい競争などしていません。また、他の先進国の最低賃金はすでに日本の1.5倍くらいですから、同程度に引き上げたとして、なぜ国際競争力で負けるかわかりません。さらに、多くの労働者が最低賃金で働いている業種は宿泊や流通などサービス業ですので、輸出とはあまり関係がありません。いかにも議論が軽いのです。

〈のんきな「教育」の議論〉
教育についての議論も、実にのんきです。教育の対象を子どもから社会人に大胆に変更しなくてはいけないのに、日本の大学はいまだに、毎年数が少なくなる子どもの奪い合いに熱中しています。

教育の無償化に関しても同様の印象を感じます。「子どもを育てるコストが高い。だから子どもを産まない、つまり少子化が進んでしまっている。ならば、教育のコストを無償にすれば、少子化は止められる」。おそらくこんなことを考えて、教育の無償化に突き進んでいるのでしょう。確かに、この理屈はもっともらしく聞こえなくもありません。

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