最新記事

犯罪

比ドゥテルテ、違法銃器を集中捜査 市長など23人逮捕に隠された闇

2019年4月2日(火)19時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

5月13日の中間選挙が関連か

さらに5月13日には上院の半数と下院、地方議員を選出する中間選挙が予定されており、今回の一斉摘発はドゥテルテ政権による選挙向けのパフォーマンスではないかとの見方もでている。

アルバヤルデ長官は「今回の一斉捜査は政治的なこととは無関係で、あくまで法を正しく適用したまでである」と述べ、摘発はその多くを「目撃証言や寄せられた情報に基づくものである」としてドゥテルテ大統領による政治的動機との見方を否定した。

実際、2018年12月27日には東ネグロス州ギフルガン市でセブ島から警察官、国軍兵士約1000人を派遣して大規模な不法銃器取り締まりが行われている。この取り締まりではバイクタクシーの運転手など5人が捜査の過程で射殺され、数十人が逮捕された。

だが、このときの捜査についても違法な取り締まりがされたという声がある。捜査当局は容疑者が逮捕段階で抵抗したためにやむを得ず射殺したと説明したものの、現地では「無抵抗、非武装の容疑者が一方的に射殺された」「容疑者とされた者の家を警察官が家宅捜査の最中に銃器を置き、それをもって容疑理由にされた」などの証言が相次ぎ、捜査のあり方が批判されていた。

麻薬、不法銃器で実績アピール

フィリピンではドゥテルテ大統領が強力に進める麻薬関連事犯の摘発に関連して、3月14日には麻薬犯罪に関与した疑いのある国会議員や市長ら40人のリストをドゥテルテ大統領の指示で公表。リストに名前が挙げられた政治家らが一斉に関与を否定するとともに反発する騒ぎとなっている。

このように5月13日の中間選挙に向けて、国内治安対策での大きな成果を国民に示す必要性からドゥテルテ大統領が国家警察などの治安当局を動員して、麻薬関連犯罪、不法銃器所持取り締まりに積極的に乗り出している、との見方が有力だ。

このためドゥテルテ大統領に批判的な勢力、政治家、地方自治体関係者の間では疑心暗鬼が広がっているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中