最新記事

東南アジア

インドネシア大統領候補に人権弾圧の疑惑 今なお13人の民主活動家が行方不明のまま

2019年3月15日(金)18時51分
大塚智彦(PanAsiaNews)

かつて独裁政権下で民主化の動きを封じようと拷問や殺人を指示したと言われるプラボウォ・スビアント氏(左)がジョコ・ウィドド大統領と、4月の大統領選の候補者受付のイベントに出席している Willy Kurniawan - REUTERS

<かつて独裁政権下で民主化の動きを封じようと拷問や殺人を指示した男が、若者の支持を集め政治の表舞台へ......>

4月17日に投票が行われるインドネシアの大統領選挙に立候補し、現職のジョコ・ウィドド大統領に挑戦している野党「グリンドラ党」のプラボウォ・スビアント氏に対し、国軍幹部時代に起きた民主活動家の行方不明事件への関与疑惑と真相究明を求める声が急速に高まっている。

プラボウォ氏は1998年に民主化運動の高まりを受けて崩壊したスハルト長期独裁政権でスハルト大統領の娘婿として陸軍内で異例のスピードで出世。特殊部隊、戦略予備軍の司令官という要職を務めた経歴がある。

1997〜98年にかけて反政府、反スハルト体制を訴える活動家や学生の運動が全国で急速に盛り上がり、国民的運動に発展しようとしていたが、民主活動家や学生運動家少なくとも23人が治安組織によって拉致された。その後、うち1人が死体で発見され9人は解放されたものの残る13人は現在に至るまで行方不明となったままである。

当時拉致に関わったのは陸軍特殊部隊の秘密部隊「グループⅣ」で、その中でも少人数の兵士でかずかずの人権侵害事件を起こしたとされる「チーム・マワール(薔薇チーム)」が主に拉致、拷問、暴行、殺害に関わったとされ、メンバーは民主化実現後に軍規違反などで軍法会議にかけられている。

行方不明者家族、生還者による会見

当時スハルト大統領の最側近で陸軍の幹部でもあることから「薔薇チーム」などを使って民主化運動を最もダークな方法で封じ込めていたのがプラボウォ氏といわれている。

3月13日、ジャカルタ中心部のホテルで開かれた記者会見の席上、行方不明者の親族が「事件の真相解明」を訴えた。そのうえで「大統領選挙で人権侵害事件への関与が濃厚なプラボウォ氏への投票を辞めよう」と呼びかけた。

雑誌「テンポ」(電子版)によるといまだ行方不明となっているプトラス・ビモ・アヌダラ氏の父ウトモ・ラハルジョ氏は「21年間待ち続けている行方不明者の真相はジョコ・ウィドド大統領の次期政権でぜひ解明してほしい。プラボウォ氏が大統領に選出されることなど想像できない」と述べた。

会見には拉致誘拐から生還した9人のうち3人が出席。「活動家の誘拐暴行や行方不明などの事件にはプラボウォ氏が関与した可能性が高い。プラボウォ氏が大統領になれば真相解明の希望はゼロになる」と大統領選でのプラボウォ氏の落選と人権侵害事件の解明を強く求めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中