金正恩の理想郷建設に赤信号 北朝鮮、「強制労働」の深い闇
忠誠よりカネ
正恩氏の肝いり経済プロジェクトを実現するために不可欠な建設労働者の多くは、未熟練労働者と兵士たちだ。
だが、無報酬労働と供出を強いられることに対する一般市民の抵抗の高まりは、サムジョンの刷新という金正恩氏の野心にとって障害となる可能性があると脱北者や識者は指摘する。
チョさんは、旅団で3年間労働奉仕を務めれば、党員資格と大学入学を認めると当局から言われた。この約束は結局8年間に引き延ばされ、ようやく約束されていた見返りをチョさんが得たのは、1987年になってからだった。
約束が必ず守られるというわけでもない。29歳のLee Oui-ryokさんは、17歳から3年間働いた旅団を離脱し、2010年に韓国へ逃れた。自分の出身を考えれば入党資格が与えられるわけがないと悟ったからだという。
また旅団メンバーへの人権侵害は甚だしく、多くは逃亡するか、旅団から解放されるよう自分で自分の身体を傷つける、と2011年に脱北し、現在はソウルでエコノミストとなっているチョさんは言う。
現在では、資産を持つ人々は、供出品を送ったり、誰かに金を払って代役を務めてもらったり、あるいは有力者に賄賂を贈って見逃してもらうといった方法で、旅団での労働奉仕を回避している。
新たな旅団メンバーの大半は、最下層の家庭出身で、現体制と格差拡大に対する嫌悪感を抱いている、と人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア担当副ディレクター、フィル・ロバートソン氏は指摘する。
「労働意欲を与えようと、こうしたプロジェクトや正恩氏の慈愛を訴える宣伝が行われているが、現実には、労働奉仕を拒んだ者には懲罰が待っている」とロバートソン氏。「そのため通常は、ほとんど人脈もなく、賄賂を使う余裕もない、その地域で最も貧しい住民が、徴募の対象になっている」
ニューヨークの北朝鮮国連代表部にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
米国務省は2017年、強制労働の大量動員は北朝鮮による核兵器開発プログラムを裏付ける人権侵害の1つだと表現。米国務省は7人の個人と、建設会社2社を含む3企業をブラックリストに記載している。
市場の成長と強制労働に対する市民の嫌悪感の高まりによって、全国の旅団の大半で労働の質が低下している、と脱北者は言う。
サムジョンにおける建設作業の一部が先月、安全上の理由により一時中断した、と脱北者が運営するウェブサイト「デイリーNK」向けに北朝鮮国民を定期的に取材している脱北者のカン・ミジン記者は言う。
「こうした旅団抜きに、あれほど大規模プロジェクトを北朝鮮が完成できるとは考えにくい。だが、必要な労働力を完全に確保する方法はない。だからこそ、彼らは国営メディアを通じて、より多くの人々を動員しようと画策している」とチョさんは言う。
「だが、逃げ出す人がもっと増え続けるだけだろうし、建物には亀裂が増えていくだろう。それが現実だ」
(翻訳:エァクレーレン)
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