金正恩の理想郷建設に赤信号 北朝鮮、「強制労働」の深い闇
北朝鮮を独裁支配している金一族の発祥の地とされる聖地・白頭山を数千人の学生が1月、働きに訪れた。この山麓の都市サムジョン(三池淵)に、金正恩・朝鮮労働党委員長(写真中央)は大規模な経済拠点を築こうとしている。サムジョンで2017年撮影。朝鮮中央通信社(KCNA)提供(2019年 ロイター)
北朝鮮を長年独裁支配している金一族の発祥の地とされる聖地・白頭山を数千人の学生が1月、働きに訪れた。この山麓の都市サムジョン(三池淵)に、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は大規模な経済拠点を築こうとしている。
ここは「自立経済」運動の一環として、自身が音頭を取る最大級の建設プロジェクトだ。その一方で、正恩氏は、今月末に開催される2回目の米朝首脳会談では、トランプ米大統領を説得し、経済制裁を解除させたいと、目論んでいる。
正恩氏は昨年少なくとも5度、中国国境に近いサムジョンを視察に訪れた。この「革命の聖地」の近代化を自ら命じてから、わずか4年後の2020年末までに、この地に新しい集合住宅、ホテル、スキーリゾート施設に加え、商業・文化・医療施設を備えた「社会主義のユートピア」を築こうというのだ。
同国の国営メディアは、愛国的な学生たちが、厳しい天候をものともせず、凍りついた米飯を食べ、彼らの健康を気遣う教師たちを尻目に、巨大な建設現場で精を出して働く姿を、感動的に描き出した。
今回のような学生の大量動員は、正恩氏と朝鮮労働党に対する忠誠を装った「奴隷労働」と同じだ、と北朝鮮を逃れた脱北者や人権活動家は主張している。
こうした若い労働者は、報酬もなく、貧弱な食事を与えられ、1日12時間以上、最長で10年働かされる。見返りは、大学への入学、もしくは強力な朝鮮労働党に入党するチャンスが高まることだ。
だが、北朝鮮の民間市場が盛んになり、政治的地位よりも経済的な安定性を重視する国民が増える中で、近年では若い労働者を徴募することが難しくなっているという。
「有利な就職機会につながる党員資格や教育の機会が得られるのでなければ、誰も募集に応じないだろう。だが最近では、市場を通じておおいに稼ぐことができる」と元労働者で脱北したチョ・チュンフイさんは言う。労働奉仕の基盤は忠誠心だ。しかし、お金の魅力を覚えてしまった人々に何を期待できるだろう」