自国経済を崩壊させる独裁者に手を貸す独裁者
Poor Man’s Empire
損失を生む超大国志向
それに、ロシアの超大国志向は高くつく。シリアに軍事介入した結果、国内の医療費や教育費、福祉支出は切り詰められた可能性がある。しかも露骨に民間施設を狙った空爆を実施したりしてアサド政権を支援したため、欧米諸国では対ロシア制裁の継続・強化を支持する世論が高まった。
シリアには今後、もっと資金を投入する必要が生じるかもしれない。昨年8月、国連は7年にわたるシリア内戦の損失を3880億ドル以上と試算した。この惨状からの復興を手助けしないと、ロシアはシリア国民の反発を買いかねない。だからこそ昨年1月には駐EUロシア大使が、欧州諸国もシリア復興に「数百億ユーロ」の援助を検討すべきだと牽制している。
ベネズエラも同様だ。既に250億ドルの資金をつぎ込んでいるが、回収の見込みはない。ちなみにイラクでも、ロシアはフセイン政権崩壊後に129億ドルの債権を放棄せざるを得ない事態に追い込まれている。
仮にマドゥロ政権が生き延びれば、ロシアは支援を続けるしかない。だがベネズエラの石油産業は設備の更新が遅れているし、アメリカから追加制裁を科された場合、国内経済は一段と疲弊するに違いない。逆に政権交代が起きた場合、ロシアの投資が守られる保証はない。
さすがに、危険な賭けから身を引く兆しもある。昨年末にはロシア最大の石油会社ロスネフチがイランとの合弁事業に300億ドル投資する計画を撤回した。リスク負担などでイラン側と折り合えなかったらしい。
超大国志向のツケはほかにもある。昨年、やむなく年金削減に踏み切ったところ、国民から抗議の渦が巻き起こった。シリアやウクライナなど「外国での冒険」の尻拭いをさせる気か、というわけだ。政府系世論調査機関の調べでも、プーチン政権に対する信頼度は年金「改革」のせいで33.4%まで下がった。
そんなロシアも、世界経済の恩恵を受けている。2016年にロシアのGDPは世界12位になり、世界最大の石油輸出国にもなった。しかし当時のオバマ米大統領は「ロシアはこれまで世界の重要な問題に積極的に関わってこなかった」と述べ、ロシアの姿勢を批判したものだ。
ロシアもグローバル化の波に乗り、先進諸国との絆を強めていけば、経済力を高めて国民の生活水準を引き上げることができるはずだ。そうすればG20などの場で影響力を発揮することもできよう。まずは国内経済の再建が大事。自国経済を崩壊させる独裁者に手を貸している場合ではない。
<2019年2月26日号掲載>
※2019年2月26日号(2月19日発売)は「沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody」特集。基地をめぐる県民投票を前に、この島に生きる人たちの息遣いとささやきに耳をすませる――。ノンフィクションライターの石戸諭氏が15ページの長編ルポを寄稿。沖縄で聴こえてきたのは、自由で多層な狂詩曲だった。
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