ミャンマー国軍最高司令官、朝日新聞の記事に抗議 単独会見記事の事前確認、朝日側「約束した認識はない」
ミン・アウン・フライン最高司令官(左)は、ミャンマーにおいてアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相(右)と並んで政治的影響力を持つ Soe Zeya Tun - REUTERS
<民政復帰を果たしたが今も国政に深く関与している軍の最高司令官。その単独会見をした日本メディアの記事が問題になっている>
ミャンマー国軍トップであるミン・アウン・フライン最高司令官が朝日新聞に掲載された自らの会見記事に関して、「記事を掲載する前に事前に見せる」との約束を反故にされ了解なく掲載されたとして、ミャンマーメディア委員会(MPC)に調査と調停を申し立てていることが明らかになった。朝日新聞側は「事前にみせると約束したという認識はない」と反論している。
米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」(ネット版)によると、朝日新聞ヤンゴン支局の染田屋竜太支局長とバンコクの貝瀬秋彦アジア総局長が2月14日に首都ネピドーでミン・アウン・フライン司令官と単独会見し、翌15日の朝日新聞紙上でその内容を掲載して報じた。
記事はアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相が目指す、軍の政治関与を見直す憲法改正案について「今は政治と治安に安定が必要」と否定的な見解を示したことや、国際社会が人権問題として批判している少数派イスラム教徒ロヒンギャ族への軍の対応について、国際社会に反論するなどの内容になっている。
ミン・アウン・フライン司令官がMPCに訴えているのは「朝日新聞はインタビュー記事の掲載に当たり事前に司令官に原稿を見せる、という約束を反故にして何の許可も同意もなく掲載した」と主張していることで、「これはミャンマーのメディア法に反し、記者としての倫理にも違反している」と主張している。
事前チェックの目的は「内容の誤解や間違いを未然に防ぐこと」としており、報道の自由が制限されたミャンマーでは記事の「事前検閲」が頻繁に実施されている実態が反映された形となっている。
朝日新聞が司令官に謝罪との情報も
日本の新聞社が記事を掲載前に取材相手などに事前にみせることは「報道の自由や中立性」から通常はありえないことだ。ただそこは記者と取材先、情報源との信頼関係で要望してきた相手に対し「口頭で概略を伝える」「機微な質疑に関しては言葉使い、語調などを再確認する」など臨機応変に対応することも例外的ではあるが行われていることは否定できない。
ミャンマーの国軍トップとの会見とはいえ、その国の報道慣習やメディア規則に唯々諾々と従うことは日本の報道倫理の上からみても必要はないといえる。
ただし、会見受諾の条件として司令官や軍当局が「事前のチェック」を提示、あるいは司令官がそうしたことを口頭でも要望し、朝日新聞側が「了解」していた場合は「約束した以上は守るべき」ということになる。
「RFA」によると、朝日新聞はこの件に関して、事前に約束があったのかどうかを含めてコメントをしていないという。
その一方でミャンマー国軍のゾウ・ミン・トゥン報道官はRFAに対し「この件の詳細は承知していないが、朝日新聞が司令官に対して謝罪文を出したと聞いている」と報じている。