米ロ軍拡競争は杞憂? トランプに張り合えないプーチンの懐事情
ロシアのプーチン大統領(写真左)には、米国との核武装競争に引きずり込まれている余裕はない。ブエノスアイレスのG20サミットで2018年11月撮影。右はトランプ米大統領(2019年 ロイター/Marcos Brindicci)
ロシアのプーチン大統領には、米国との核武装競争に引きずり込まれている余裕はない。支持率の低下に悩み、新たな西側制裁に対する備えや国民の生活水準向上のために予算を確保しておく必要に迫られているからだ。
トランプ米政権は1日、ロシアと結んでいる中距離核戦力(INF)廃棄条約にロシアが違反しているとして、同条約を破棄すると表明した。ロシアが違反を是正しなければ条約は6カ月後に失効し、米国は自由に新型ミサイルを開発できるようになる。
これにより、米露の新たな核軍拡競争が起きる懸念が高まっている。ロシア側は、条約違反を否定。プーチン氏は、ロシアも条約の義務を停止して同条約から離脱することを明らかにし、米国に対抗した。
これまで西側との対立をあおったり、ロシア人の結束を高めたりするために時に好戦的な発言を用いてきたプーチン氏だが、今回は対立の激化を招くような手には出なかった。
新型ミサイルシステムの予算は既存の予算から出すしかないと述べたが、新型ミサイル配備を宣言することはなかった。そして、ロシア側は、米国が先にそうした動きに出ない限り、欧州やその他の地域で新たに地上配備型ミサイルを導入することはないと述べた。
「高額な軍拡競争に陥ることは許されない」。プーチン氏はショイグ国防相にこう語った。
この発言は、必要性から出たものだ。
厳しい経済・政治状況に加え、冷戦期の軍拡競争コストがソ連崩壊の一因となったことを考えれば、プーチン氏の選択肢は限られている。将来的にも、高コストな軍拡に乗り出す意欲を縛る要素になるだろう。
「軍拡競争がわれわれをバラバラにしてしまう懸念は、非常に現実的なものであることを覚えておく必要がある」。ロシアの中央銀行総裁を務めたセルゲイ・ドゥビニン氏は、米側が離脱を表明する前に放映されたテレビ番組でこう述べた。
ドゥビニン氏は、ソ連を無茶な軍拡競争に誘い込んだ冷戦期の成功戦略を、米国が再び再現しようとしていると分析。ロシアは米国と「対等」であることを目指すのは避けるべきで、賢明な対応が求められると述べた。
1991年のソ連崩壊の直前、モノ不足でスーパーの棚が空になったことは、今でも一定以上の年齢層の国民の記憶にこびりついている。ソ連は米国との競争に負けないために巨額の予算を軍事産業につぎ込み、消費者の苦境は無視した。
「米国人は、ミサイルや原子力潜水艦や戦車の生産で米国に張り合おうとしたのがソ連崩壊の一因だったということを覚えている」と、軍事専門家のビクトル・リトブキン氏は国防省が運営するテレビ局の番組でこう語った。
「彼らは今、同じことを繰り返そうとしている」