米ロ軍拡競争は杞憂? トランプに張り合えないプーチンの懐事情
米国と張り合うコスト
INF廃棄条約の停止を受けて、米露両政府は、それぞれこれまで禁止されていた短距離や中距離の地上配備型ミサイルを開発するとしている。ロシアは、2021年までに配備を完了したいと表明している。
ショイグ国防相はプーチン大統領に対し、新たな地上配備型ミサイル発射装置2種類の開発予算は、今年度予算の一部から振り分けることで捻出すると述べた。
ロシアは国防費や国家安全保障関連費の全貌は公表していないものの、約18兆ルーブル(約30兆円)の今年度予算の30%程度だとしている。
原油からの歳入があるロシアは、財源に苦労しているわけではない。今年の財政黒字は、国内総生産(GDP)の1.8%にあたる1兆9320億ルーブルに上る見通しだ。外貨準備高は、世界5位の4780億ドル(約52兆円)だ。
だが予算は、ロシアの困難な地政学的状況や、プーチン氏本人が置かれた複雑な国内政治事情に従って、すでに配分が決まっている。そこからミサイル予算を捻出するには痛みを伴うだろう。
ロシア政府は、新たな西側の制裁に備えて2000億ドルのキャッシュを集めようとしており、同時に巨額の財政支出で老朽化したインフラの更新や生活水準の引き上げをはかろうとしている。
長年にわたる実質所得の減少や物価の上昇、付加価値税の引き上げに加え、不人気な年金受給開始年齢の引き上げ計画などで国民に不満が出始めており、プーチン氏は成果を出すプレッシャーにさらされている。
ロシアの監査法人FBKの戦略分析研究所のイーゴリ・ニコラエフ所長は、プーチン氏が新たな軍拡競争の予算を作るには、他の予算を削る必要があるだろうと指摘。社会向けの支出を縮小したり、政府系ファンドの資金に手を付けたりせざるを得なくなると予想する。
もし軍拡競争が加速すれば、このようなシナリオが現実になる可能性が高まる。だがプーチン氏は、現在の政治情勢では国防費の増額に消極的だろうと、ニコラエフ氏は言う。
「実質所得や支持率の現状を考えれば、理想的ではない。国家プロジェクトの支出を削れば、反発も招くだろう」と、同氏は付け加えた。
昨年再選を果たして任期が2024年までとなったプーチン氏は、差し迫った政治的圧力に直面しているわけではないが、支持率はこの13年で最低の水準に落ちている。今月行われた世論調査では、国が正しくない方向に向かっていると答えたロシア人の数が2006年以降で最高になった。
ワシントンの動きに対し、プーチン氏が新型ミサイル開発も含めた同等の対抗措置を取ったことで、すでに怒りをあらわにしている国民もいる。
「新たな軍拡競争は楽しいのか」と書いたのは、ブロガーのウラジーミル・アキモフさん。「道路を修復して、国中の人が住んでいる木造の小屋を解体することから始めたらどうなのか」と、貧困対策に予算を使うよう訴えた。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)
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