アップル失速は中国経済減衰のせいなのか?
インドという「組み立て」候補地も考えているようだが、なんと言ってもクックは習近平の母校である清華大学の経済管理学院顧問委員会のメンバーだ。習近平のお膝元にいる。習近平は華為との関係において、クックを操っている。
では、日本はどうなるのか。
iPhoneのキーパーツである半導体の多くを、中国のiPhone製造工場に輸出している日本としては、iPhoneの売れ行きが不振になると、その半導体も要らなくなるので日本の半導体業界に更なる不況風が吹くことになる。
だから諸悪の根源は「中国の経済減速」としておけば、一応、体裁が保てるという寸法なのだろうか。
春節のビデオメッセージを送った安倍首相
春節の前夜で、大晦日に相当する2月4日、安倍首相は中国語で冒頭挨拶をするというビデオメッセージを送った。
同時に東京タワーが初めて中国共産党の「紅(くれない)の色」に染まり、ライトアップされたのだ。
ああ、何ということだろう――!
なぜ、ここまでして中国に跪かなければならないのか――!
安倍首相は昨年、念願の国賓としての訪中を成し遂げ、習近平国家主席に「一帯一路における協力を強化する」と誓った。中国が一帯一路沿線国の内の発展途上国に代わって人工衛星を打ち上げてあげてGPSなどのメインテナンスも中国がしてあげるという形で実質的な宇宙支配を進めている中、その一帯一路に協力すると誓ったのだ。
そしてこの「紅」のライトアップと中国語祝賀挨拶を交えたビデオメッセージ。
いま習近平国家主席は放っておいても日本に秋波を送ってくる。
アメリカから半導体の中国への輸出を規制された習近平としては、日本に微笑みかける以外にないからだ。トランプが作ってくれた、滅多にないこのチャンスを、安倍首相はわざわざ潰して自ら中国にラブコールを続けるというのは、何ということか。
こういう時にこそ、毅然として、相手が頭を下げてくるのを待つべきなのに、そのチャンスを自らの手で潰してしまったのだ。
1月24日にコラム「日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない」に書いたように、これは1992年以来の外交敗北以外の何ものでもない。
iPhoneの「風吹けば桶屋が儲かる」の逆パターンが日本の関連業界を直撃したのは、中国経済の減速が最大の原因ではなく、日本の貿易構造と産業構造への反省のなさではないのだろうか。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。