恋人たちのハグ厳禁! インドネシア・アチェ州、公共の場で抱擁した18歳カップルを公開むち打ち刑に
大統領も廃止を呼びかけ
アチェ州のむち打ち刑は見せしめ効果も狙って公開で行われることが多く、マスコミなどを通じてその様子が国際社会に広く伝えられ、国際的な人権団体やインドネシア国内の人権グループなどからも「残酷で非人道的な刑であり、即時撤廃を求める」との要求が出されている。
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領もこうした国内外の世論を背景にむち打ち刑の廃止を呼びかけているが、これまでのところ実現はしていない。
アチェ州ではこうした批判に配慮して一部の郡や県では「今後むち打ち刑は公開ではなく、刑務所の内部で非公開にして実施する」ことを検討し始めているというが、いくつかの地方では「公開を継続する」としており、足並みがそろっていないのが現実という。
むち打ち刑は東南アジアではインドネシア以外にもシンガポールやイスラム教国であるマレーシア、ブルネイで採用されている。
シンガポールではむち打ち刑は16歳から50歳までの男性にのみ適用され、最大で24回と規定されている。対象となる犯罪は不法入国や不法滞在、武器の所持、男性の同性愛行為などで、年間約1000人が刑を受けているといわれている。
マレーシアでは2018年4月に北部トレンガヌ州で同性愛行為を行っていたことを裁判で認めた22歳と32歳の女性2人に対し、罰金とそれぞれ6回のむち打ち刑の有罪判決が下され、同年9月3日に刑が行われている。
同じイスラム教国のブルネイでもむち打ち刑が導入されており、特に婚外性交や同性による性行為には厳しく対処している。配偶者以外の異性との性行為は禁止されており、違反すれば既婚者であればむち打ち30回と7年の懲役刑、未婚者の場合はむち打ち15回と3年以下の懲役刑が待っているという。
アチェ、外国人観光客も要注意
こうしたむち打ち刑が導入されている国や地域では、非イスラム教徒や外国人観光客も注意が求められている。インドネシアのアチェ州を管轄する在メダン日本総領事館はホームページなどで「アチェ州では屋外での飲酒を回避するとともに、宗教施設であるモスクに入る時などは短パンや半袖といった肌が露出した服装は避ける」ことなどの注意を呼びかけている。
ブルネイではかつて首都のバンダルスリブガワン市内の中華料理店で外国人などが「スペシャルティー」と注文するとお茶の急須に入ったビールが提供されていたが、近年は取り締まりが厳しくなってきたため、わざわざ車で小一時間かけて国境を越え、マレーシア領内で飲酒するケースが多いという。
マレーシア航空、ガルーダ・インドネシア航空ともに機内ではビールやワインなどの酒類を提供しているが、東南アジアでは唯一ブルネイ航空機には一切のアルコールが置いておらず、機中での飲酒は不可能となっている。
今回公開むち打ち処刑が行われたインドネシア・アチェ州内でも、屋外や公の場での飲酒は控え、ホテルの部屋などでたしなむことが求められている。市内を巡回している宗教警察は基本的にイスラム教徒の監視、指導、摘発を任務としているが、肌の露出が過度の男女には注意を与えることもあるとされ、アチェを訪れる外国人はイスラム教への特段の配慮が求められている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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