最新記事

イスラム教

恋人たちのハグ厳禁! インドネシア・アチェ州、公共の場で抱擁した18歳カップルを公開むち打ち刑に

2019年2月2日(土)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大統領も廃止を呼びかけ

アチェ州のむち打ち刑は見せしめ効果も狙って公開で行われることが多く、マスコミなどを通じてその様子が国際社会に広く伝えられ、国際的な人権団体やインドネシア国内の人権グループなどからも「残酷で非人道的な刑であり、即時撤廃を求める」との要求が出されている。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領もこうした国内外の世論を背景にむち打ち刑の廃止を呼びかけているが、これまでのところ実現はしていない。

アチェ州ではこうした批判に配慮して一部の郡や県では「今後むち打ち刑は公開ではなく、刑務所の内部で非公開にして実施する」ことを検討し始めているというが、いくつかの地方では「公開を継続する」としており、足並みがそろっていないのが現実という。

むち打ち刑は東南アジアではインドネシア以外にもシンガポールやイスラム教国であるマレーシア、ブルネイで採用されている。

シンガポールではむち打ち刑は16歳から50歳までの男性にのみ適用され、最大で24回と規定されている。対象となる犯罪は不法入国や不法滞在、武器の所持、男性の同性愛行為などで、年間約1000人が刑を受けているといわれている。

マレーシアでは2018年4月に北部トレンガヌ州で同性愛行為を行っていたことを裁判で認めた22歳と32歳の女性2人に対し、罰金とそれぞれ6回のむち打ち刑の有罪判決が下され、同年9月3日に刑が行われている。

同じイスラム教国のブルネイでもむち打ち刑が導入されており、特に婚外性交や同性による性行為には厳しく対処している。配偶者以外の異性との性行為は禁止されており、違反すれば既婚者であればむち打ち30回と7年の懲役刑、未婚者の場合はむち打ち15回と3年以下の懲役刑が待っているという。

アチェ、外国人観光客も要注意

こうしたむち打ち刑が導入されている国や地域では、非イスラム教徒や外国人観光客も注意が求められている。インドネシアのアチェ州を管轄する在メダン日本総領事館はホームページなどで「アチェ州では屋外での飲酒を回避するとともに、宗教施設であるモスクに入る時などは短パンや半袖といった肌が露出した服装は避ける」ことなどの注意を呼びかけている。

ブルネイではかつて首都のバンダルスリブガワン市内の中華料理店で外国人などが「スペシャルティー」と注文するとお茶の急須に入ったビールが提供されていたが、近年は取り締まりが厳しくなってきたため、わざわざ車で小一時間かけて国境を越え、マレーシア領内で飲酒するケースが多いという。

マレーシア航空、ガルーダ・インドネシア航空ともに機内ではビールやワインなどの酒類を提供しているが、東南アジアでは唯一ブルネイ航空機には一切のアルコールが置いておらず、機中での飲酒は不可能となっている。

今回公開むち打ち処刑が行われたインドネシア・アチェ州内でも、屋外や公の場での飲酒は控え、ホテルの部屋などでたしなむことが求められている。市内を巡回している宗教警察は基本的にイスラム教徒の監視、指導、摘発を任務としているが、肌の露出が過度の男女には注意を与えることもあるとされ、アチェを訪れる外国人はイスラム教への特段の配慮が求められている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領のクリミア固執発言、和平交渉の障害

ワールド

米中関税の相互的な引き下げ必要、進展に緊張緩和不可

ビジネス

米物価、全地区で上昇 経済活動は横ばい=地区連銀報

ビジネス

ユーロ圏インフレ、短期的には低下加速を予測=オラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    ウクライナ停戦交渉で欧州諸国が「譲れぬ一線」をア…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中