Huaweiめぐり英中接近か──背後には華人富豪・李嘉誠
このように、おそらく「中国政府とのつながりが最も薄い唯一の民間大企業」であるHuaweiだけを取り上げて、「情報を盗んで中国政府に提供している」と強弁することには無理がある。アメリカがHuaweiを攻撃するのは、その頭脳であるハイシリコンという半導体メーカーがあまりに優秀で、アメリカの半導体大手のクァルコムを抜くのではないかと警戒しているからだ。
世界は次世代スマホ5Gネットワークシステムをどの国のどの企業が獲得するかで争っているが、その有力な規格候補として残っているのはHuaweiとクァルコムで、しかも通信速度や価格において、必ずしもクァルコムが有利ともいえない。
そのHuaweiをやっつけたい気持ちは分かるが、中国政府と癒着しているとして攻撃するには、少々相手が違うのではないだろうか。
中国政府がHuaweiを認め始めた
これまで中国政府は、Huaweiだけを、表彰する対象や中国政府と情報を共有する企業から外してきた。
ところが李嘉誠がHuawei側に付いたのを知った中国政府は、これも慌てて1月8日に授与した「2018年国家科学技術進歩賞」123項目の中の一つにHuaweiを入れた。たかだか123項目の中の一つではあっても、中国政府がHuaweiを肯定し表彰するのは実に珍しい。
これに対してネットでは、「なんと言っても自分の国家に初めて認められたのだから、これ以上の喜びごと(めでたいこと)はないだろう」という趣旨の論考が春節を前に現れたほどだ。
李嘉誠がHuaweiの味方に付いたので、イギリスも慌てれば中国政府も慌ててヨーロッパに力を入れ始めた。ヨーロッパが趨勢を決める分岐点だという論評が中国共産党系メディアから出ている。そしてトランプの言動が米欧関係を崩し、トランプの対中制裁によって日本が経済復興のチャンスとばかりに中国にすり寄っているという分析まで見られる。日本にしてもヨーロッパにしても、アメリカとの同盟関係に中国が楔を打つことができる状況を、アメリカ自身が作っていったという見解が多い。
李嘉誠は幼いころの極貧生活経験があるので、鋭いビジネス感覚だけでなく、「弱い者の味方」をする正義感を持っている。だからHuaweiを応援した。それが今回の急展開をもたらしたと言っていいだろう。習近平は、Huaweiを応援する「人民の声」が最も怖いのだから。
実際には中国政府と癒着どころか最も疎遠で、しかも若者が応援するHuaweiをターゲットにすれば、人民が動き出すだろうことを懸念してきたが、ここにきて李嘉誠という思いもかけないファクターが加わり、一気に地殻変動が起きる兆しが見えてきた。
なお、Huaweiの任正非総裁は、もし中国政府が「国家情報法」に基づいて個人情報を提出せよと要求して来たら、その時はHuaweiという会社を閉鎖する(廃業する)と断言している。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。