最新記事

中国

Huaweiめぐり英中接近か──背後には華人富豪・李嘉誠

2019年2月22日(金)12時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

このように、おそらく「中国政府とのつながりが最も薄い唯一の民間大企業」であるHuaweiだけを取り上げて、「情報を盗んで中国政府に提供している」と強弁することには無理がある。アメリカがHuaweiを攻撃するのは、その頭脳であるハイシリコンという半導体メーカーがあまりに優秀で、アメリカの半導体大手のクァルコムを抜くのではないかと警戒しているからだ。

世界は次世代スマホ5Gネットワークシステムをどの国のどの企業が獲得するかで争っているが、その有力な規格候補として残っているのはHuaweiとクァルコムで、しかも通信速度や価格において、必ずしもクァルコムが有利ともいえない。

そのHuaweiをやっつけたい気持ちは分かるが、中国政府と癒着しているとして攻撃するには、少々相手が違うのではないだろうか。

中国政府がHuaweiを認め始めた

これまで中国政府は、Huaweiだけを、表彰する対象や中国政府と情報を共有する企業から外してきた。

ところが李嘉誠がHuawei側に付いたのを知った中国政府は、これも慌てて1月8日に授与した「2018年国家科学技術進歩賞」123項目の中の一つにHuaweiを入れた。たかだか123項目の中の一つではあっても、中国政府がHuaweiを肯定し表彰するのは実に珍しい。

これに対してネットでは、「なんと言っても自分の国家に初めて認められたのだから、これ以上の喜びごと(めでたいこと)はないだろう」という趣旨の論考が春節を前に現れたほどだ。

李嘉誠がHuaweiの味方に付いたので、イギリスも慌てれば中国政府も慌ててヨーロッパに力を入れ始めた。ヨーロッパが趨勢を決める分岐点だという論評が中国共産党系メディアから出ている。そしてトランプの言動が米欧関係を崩し、トランプの対中制裁によって日本が経済復興のチャンスとばかりに中国にすり寄っているという分析まで見られる。日本にしてもヨーロッパにしても、アメリカとの同盟関係に中国が楔を打つことができる状況を、アメリカ自身が作っていったという見解が多い。

李嘉誠は幼いころの極貧生活経験があるので、鋭いビジネス感覚だけでなく、「弱い者の味方」をする正義感を持っている。だからHuaweiを応援した。それが今回の急展開をもたらしたと言っていいだろう。習近平は、Huaweiを応援する「人民の声」が最も怖いのだから。

実際には中国政府と癒着どころか最も疎遠で、しかも若者が応援するHuaweiをターゲットにすれば、人民が動き出すだろうことを懸念してきたが、ここにきて李嘉誠という思いもかけないファクターが加わり、一気に地殻変動が起きる兆しが見えてきた。

なお、Huaweiの任正非総裁は、もし中国政府が「国家情報法」に基づいて個人情報を提出せよと要求して来たら、その時はHuaweiという会社を閉鎖する(廃業する)と断言している。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中