最新記事

袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ

ブレグジット秒読み、英EU離脱3つのシナリオ

Women on the Verge

2019年2月7日(木)06時45分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

2つ目のシナリオは国民投票の再実施。その可能性は大いにあるし、今度こそ国民は残留を選ぶだろうと予想する人もいる。前回の投票結果で株価の下落という痛手を被ったからだ。

だが離脱強硬派のナイジェル・ファラージュは、再投票が実施されても自分の支持者が残留派を圧倒すると自信満々だ。「有権者の決意は固く、さらに大差で離脱が決まる」と本誌に寄稿した(関連記事:メイ首相は「悲惨なほど交渉力なく頑固一徹」 EU離脱混迷の責任は...)。

magSR190207women-5.jpg

メイ首相の退陣を求めるデモ隊 HENRY NICHOLLS-REUTERS

「敵意の政治」が英国を分断

保守党がメイを解任し、EUとの新たな合意を模索する指導者を選び直すという展開もあり得る。英BBCによれば、メイと対立する保守党議員は再度、党首不信任の投票に持ち込めるだけの署名を集めつつあるという。

しかし最も現実味があるのは、メイがEUを説得し、3月29日の離脱期限を数カ月延長してもらうというシナリオだろう。時間を稼いでEUとの交渉を再開すれば、議会を通しやすい協定案を作成できるかもしれない。英ノッティンガム大学の政治学者クリストファー・スタッフォードも「厄介な問題に関する協定を大幅に変えるにはEUとの協議を再開」するしかないと言う。

メイを悩ませる議会の分断は路上にも広がっている。メイが辛抱強くEUと協定を交渉していたときも、議会の外には連日極右団体が集結し、EU残留派議員に罵声を浴びせていた。12月にはロンドンでイスラム教徒排斥を訴える活動家のトミー・ロビンソンが、極右政党イギリス独立党の支持者数千人を率いてメイ首相への抗議活動を行い、彼女を「売国奴」と罵った。

「これは混じり気のない敵意の政治、ポピュリズムの政治だ」と、英バーミンガム大学の政治学者アレックス・オーテンは嘆く。「ブレグジットは人々を『われわれ』と『彼ら』に二分するメンタリティーを解き放ち、そのメンタリティーがわれわれの民主主義を分断している」

ドイツでも数年前から社会の分断が進んできた。大きな要因はメルケルの難民政策だ。学術誌地球倫理ジャーナルに掲載された論文によれば、賃上げの停滞と雇用不安による生活水準の低下に長く耐えてきた中流層と労働者の多くが、メルケルが難民受け入れに巨費を投じたことに反発した。

そして2015年末の集団暴行事件が決定的に世論の流れを変えた。リークされた警察文書によれば、2000人もの男が1200人の女性を襲い、24人を強姦したという。警察が特定した容疑者120人の約半数が、ドイツに来て日の浅い外国籍の男だった。

この事件を境に難民への感情は急激に悪化し、特に経済の低迷から難民への悪感情が膨らんでいた東部では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いづいた。2017年9月の連邦議会選挙でAfDは初の国政進出を果たすと同時に第3党に躍り出て、事実上の最大野党となった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中