ブレグジット秒読み、英EU離脱3つのシナリオ
Women on the Verge
皮肉なことに、EUの強力な擁護者であるメルケルとメイが、EU分解の不安を引き起こしたのかもしれない。2人とも自国の庶民の気持ちを見誤ったと言われている。庶民には欧州統合よりも自分たちの利益や経済的な困窮のほうが切実な問題なのだ。
メルケルの失敗は、2015年の難民受け入れ政策を国民の大半が歓迎すると計算違いしたこと。メイの失敗は(自身は国民投票では残留に賛成したのに)心ならずもブレグジット実現の任を引き受け、自分のまとめたソフトブレグジットの構想を離脱派が受け入れてくれると甘く考えた点にある。
メルケル政策がメイを苦境に
2人の思惑は外れ、今やナショナリズムと移民排斥の大波を受け、指導者としての威信が傷つき、EUの未来を危うくしている。ドイツの極右政治家には「デグジット(ドイツのEU離脱)」を口にする者もいる。
「私のキャリアを通じて、今ほどヨーロッパが心配な時はない」と本誌に語ったのは、オバマ前米政権の国家安全保障会議で欧州担当だったチャールズ・カプチャン。一部には、メイの現在の窮状はメルケルが100万人以上の難民を受け入れ、多額の資金を投じたことが遠因だという見方もある。
世界のリーダーは当初、メルケルの政策を人道的だとたたえた。しかし最終的には、難民の大量流入に音を上げたハンガリーやイタリアなどで反移民の動きが活発化。各国で極右政党が台頭した。2015年の大みそかの晩にドイツ6都市で起きた外国籍を含む男たちによる女性への性的暴行事件も、この流れに拍車を掛けた。
イギリスでも保守派がEUの環境、運輸、消費者保護、携帯電話料金などへの規制にいら立っていたが、難民危機をきっかけにEUへの激しい抵抗運動が起き、極右はイスラムへの反感をあおった。こうした不満と抗議が、国民投票の結果につながった。
国民投票前まで内相を務めていたメイは、EU加盟の経済的恩恵を力説していた。しかし国民投票で敗れたデービッド・キャメロン首相の辞任を受けて保守党党首に就任し、メイ政権がスタート。メイは国民の意思であるEU離脱を遂行すると誓い、離脱による経済的衝撃を和らげるためにEU指導者から多くの譲歩を勝ち取り、2年間の猶予も取り付けた。
しかし、その先が見えない。シナリオはいくつかあるが、混乱は必至だ。例えばボリス・ジョンソン前外相らが主張するように、「ハードブレグジット(合意なき離脱)」を選ぶ道もあり得る。しかし経済への大きな痛手を伴うため、議会の支持は得られないだろう(1月29日に英議会は合意なき離脱を拒否するとした提案を可決した)。イングランド銀行(日銀に相当)の2018年11月の報告によれば、ハードブレグジットなら失業率が7.5%に上昇し、住宅価格は30%ほど下落、通貨ポンドも下落し、経済は今年末までに8%ほど縮小する。