最新記事

袋小路の英国:EU離脱3つのシナリオ

ブレグジット秒読み、英EU離脱3つのシナリオ

Women on the Verge

2019年2月7日(木)06時45分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)

それまでナチスの歴史を背負うドイツは極右団体の活動に神経をとがらせ、有権者はAfDを公然と支持するのをためらっていた。しかし2017年の選挙後は「ドイツもありきたりの欧州国家になった」と米シンクタンク、ジャーマン・マーシャルファンドのベルリン事務所で副所長を務めるスーダ・デビッド・ウィルプは言う。今やドイツも、移民排斥の極右政党が勢力を伸ばしているという点ではフランスやイタリア、ハンガリーなどと変わらない。

メルケルは中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)を率い、2005年から3回の総選挙を快勝に導いてきた。ところが2017年の選挙ではかろうじて勝利したものの連立協議が難航、政権の確立までに半年もかかった。

中道路線の維持は困難だが

2018年10月の地方選ではCDUが大敗し、メルケルは辞意を表明。18年続いた党首の座を直ちに退き、5期目の首相選には立候補しないと発表した。「新しい章を開く時が来た」と、64歳のメルケルは語った。

magSR190207women-6.jpg

メルケル後継の党首になったクランプカレンバウアー KAI PFAFFENBACH-REUTERS

だがその「時」が来るのはまだ少し先だ。メルケルは2021年の任期満了まで首相を務める意向を示している。そして新しい党首には、自ら後継者に指名したアンネグレート・クランプカレンバウアーが選出された。

ドイツの中道派をテコ入れし、AfDの脅威を跳ね返し、欧州全土を席巻する極右の台頭にあらがうチャンスが、メルケルには残っている。「だが勝つためには、既にメルケル後を見据えているドイツで影響力を維持しなければならない」と、カプチャンは言う。「道が弱体化している今、中道寄りの統治は続けられない。ポピュリズムに引き裂かれつつある欧州を束ねていくことも必要だ」

米独連携を支援する非営利団体「ドイツに関するアメリカ評議会」のスティーブン・ソコル会長によれば、今年実施される2つの選挙がメルケルの評価を決める試金石となる。1つ目はヨーロッパ中の極右政治家が中道政治家と対決する5月の欧州議会選挙。そして秋にはAfDの牙城とされるドイツ東部3州で地方選挙がある。「どちらにもメルケルの信任を問う意味合いがある」とソコルは言う。

magSR190207women-7.jpg

2017年の総選挙ではメルケル与党が辛勝、最大野党となった極右政党「ドイツのための選択肢」の面々 MARIJAN MURATーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

メルケルは、ドナルド・トランプ米大統領という脅威にも直面している。防衛費の負担をめぐってNATO加盟国を声高に非難してきたトランプのこと、いつNATOからの離脱に踏み切っても不思議はない。そうなれば70年来の米欧同盟が崩壊する。

米政府高官がニューヨーク・タイムズ紙に語ったところでは、トランプは昨年、再三にわたり離脱の意向を周囲に漏らした。ドイツ以下の加盟国が希望どおりに負担金を増やさなければ、再び脅しをかけるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中