中国のAI巨大戦略と米中対立――中国政府指名5大企業の怪
日本では適当な噂に乗って、中国の監視体制の顔認識に関しては「中国政府と癒着しているHuaweiが担当している」などと、まことしやかに語っているが、顔認識分野を担当しているのは、このセンスタイムだ。政府文書にも明示されている。
奇妙なのは、このセンスタイムが香港の企業だということである。2014年に香港中文大学工程学院の湯暁鴎教授が創設した。彼はAI技術の核を成すディープラーニングが専門だ。
センスタイムは香港発の企業であるだけでなく、実はクァルコムと深い関係を持っている。中国政府が香港企業を選んだのは、マカオや香港などの特別行政区をカバーする必要があるからだと中国政府文書にはあるが、センスタイムは2017年11月15日にクァルコムからの巨大投資を受け、ディープラーニングを中心としてAIとVR(Virtual Reality=仮想現実)やAR(Augmented Reality=拡張現実)を結びつける分野を共同開発している。
今や、Huaweiかクァルコムかで米中が争っているそのクァルコムと提携しているセンスタイムが、中国政府の指定5大企業の中の一つであるというのは、どう考えても整合性に欠ける。水面下で何が起きているのか、注視しなくてはなるまい。
米中どちらがAI覇権を握るか――中国の量子コンピュータ
AI覇権を米中どちらが握るかに関しては、AIそのものの技術以外に、二つの決定要因が絡んでくる。
1つは資金力とイノベーションの問題で、これはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)(ガーファ)が自由競争というボトムアップの中からイノベーションを生み出してきたのに対して、BATISは一党独裁国家が国家プロジェクトとしてトップダウンで国の予算を配分している。
資金力という側面から見たら、文句なしに中国が強いことになる。しかし独裁国家からイノベーションが生まれるのかとなると、「生まれにくい」と思うのが常識的だ。
ところが中国の場合、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で詳述したように、欧米に留学した膨大な人材が中国に帰国しているので、必ずしも「独裁政権ではイノベーション的思考が止まってしまう」とも言いきれない現状にある。特に中国は月の裏側への軟着陸とか、人類には解読不能な量子暗号による量子通信に成功したりなどしている。これはアメリカよりも先んじているので、イノベーションの力よりも資金力の方がものを言っているかもしれない。