EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド
この安全策の設定から抜け出るには、EUと英国の両方の合意が必要と規定され、適用期限は特定されない。英国のブレグジット支持者や政治家は、「半永久的にEUの関税同盟や単一市場に入り続けることになる」といって、安全策に猛烈に反対した。
北アイルランドが英国本土と同様に扱われることを望むプロテスタント系地方政党「北アイルランド統一党(DUP)」も、「絶対に受け入れられない」と突っぱねた。
かくして、政府の離脱協定案は1月15日、下院で賛成202、反対423票という大差で否決された。
検問所は格好の攻撃対象
アイルランド島は過去何世紀にもわたり英国の支配下にあったが、カトリック教徒が大部分の南部が1922年に自治領となり、37年に英連邦内の自治領として独立し、49年にアイルランド共和国となっている。プロテスタント系が多い北部6州は英国の一部として残ることを選択した。
約500キロにわたるアイルランドとの国境で検問所の機能が復活すると、北アイルランド紛争の再来にもつながるような暴力事件が起きる可能性がある、と言われている。
なぜそうなるのかというと、ベルファスト合意から21年になるが、いまだに北アイルランドは一触即発状態にあるからだ。
筆者の隣人で北アイルランドの主都ベルファスト出身のクリス・ケネディ氏は、「宗派同士の争いには飽き飽きした。だからロンドンに来た」という。今はエンジニアとして働いている。
母と兄が今もベルファストにいるが、「2度と戻りたくない」。
常にカトリックかプロテスタントかを判断され、うっかりと別の宗派の酒場には行けばトラブルに出会う。通りで「ガンをつけた・つけられた」と言っては、すぐに暴力沙汰になり、「普通の生活ができなかった」という。
ケネディ氏が心配しているのは、国境が復活すること。ベルファスト合意でそれぞれの宗派の民兵組織は武器を廃棄したことになっている。しかし、「まだまだ備蓄があったというのが地元では定説」で、「必ずまた暴力事件が頻発するから」だ。
筆者自身、何度も北アイルランドを訪れたことがあるが、最初にベルファストに足を運んだ時の衝撃が忘れられない。ロンドンや英国のほかの主要都市と変わらない繁華街、ビジネス街の賑わいがある一方で、プロテスタント系あるいはカトリック系民兵組織を称賛するようなテーマを描いた壁画があちこちで目に付く。例えば、覆面をかぶり、銃を手に持つ男性の姿が描かれている。