最新記事

北アイルランド問題

EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド

2019年1月29日(火)20時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

プロテスタント系住民とカトリック系住民の居住地を分ける高い壁(皮肉を込めて「平和の壁=ピース・ウオール」と呼ばれる)が建設されており、通り過ぎる人を圧倒する。

旗が連なる光景もよく目につく。プロテスタント系住民は、英国とのつながりを強調するため、イングランドの旗をいくつもつなぎ、自宅やその近隣を囲む。カトリック系住民のほうは統一を望むアイルランドの旗を同様に飾る。自分たちの陣地をそれぞれ主張している。

小学校から中等教育まで、それぞれの宗派によって進学する学校が異なり、カトリックの家庭で育った子供がプロテスタントの子供と初めて言葉をまともに交わしたのは、大学に入ったときか、就職したときというケースは珍しくない。

カトリックの子供もプロテスタントの子供も一緒に学ぶ「インテグレーテッド・スクール」と呼ばれる学校は、全体の数パーセントにとどまっている。

国境検査を再来させるかもしれないブレグジットは、カトリック系民兵組織からすれば、北アイルランドとアイルランドを分断させる動きだ。抗議や怒りの表明として、誰かが検査所を攻撃することを期待する機運が生まれてしまう。

今月19日、北アイルランド第2の都市ロンドンデリー(カトリック系住民は「デリー」と呼ぶ)の市街地で、自動車爆弾による爆発が発生した。地元の警察は、カトリック系過激派民兵組織「アイルランド共和軍(IRA)」から分離した組織の犯行によるものとみている。

メイ首相やアイルランドのレオ・バラッカー首相、そしてEUさえも「北アイルランドとアイルランドの間の国境検査を復活させない」と誓うのは、本当に暴力再来の可能性があるからだった。

ginko190129-2.jpg
英首相官邸でアイルランドのレオ・バラッカー首相(左)と握手するテリーザ・メイ英首相。2人とも、北アイルランドでの暴力再燃を強く警戒している。EUも同じだ  Flickrより
 

自治政府も空中分解

2012年以来、北アイルランド自治政府が崩壊したままであることも暴力の発生を防ぎきれない要素だ。

ベルファスト合意後の北アイルランド自治政府は、プロテスタント、カトリックの有権者を代表する政治家が首相、副首相を担う形で続いてきたが、互いへの不信感が根強く、これまでも数回政権崩壊の危機を経験してきた。

2012年、プロテスタント系政党DUPが主導していた再生エネルギー導入計画が巨額の損失を出し、カトリック系のシン・フェイン党がDUPの党首で自治政府首相のアイリーン・フォスター氏の辞任を求めたが、同氏がこれに応じなかったため副首相だったマーティン・マッギネス氏が辞職。自治政府は空中分解した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:ラグジュアリー業界、シェア獲得に向け支出

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本版独占試写会 60名様ご招待
  • 4
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中