最新記事

北アイルランド問題

EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド

2019年1月29日(火)20時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

7年後の現在、自治政府はまだ再開しておらず、国境問題の安全策についての決定は中央政府の手にゆだねる状態となっている。

北アイルランド議会ではプロテスタント系の第1党はDUP(全90議席中、28議席)、カトリック系の第一政党がシン・フェイン党(27議席)で、ほんの1議席の差しかない。これにカトリック系の社会民主労働党(SDLP、12議席)、プロテスタント系のアルスター統一党(UUP,10議席)、中立の北アイルランド同盟党(8議席)、緑の党(2議席)、無所属他3議席となる。

下院(定員650)ではDUPは10議席を持つが、シン・フェイン党は7議席。しかし、シン・フェイン党は北アイルランドとアイルランドとの統一を望み、「英国の女王に忠誠は誓えない」という理由から登院していない。

ginko190129-3.jpg
北アイルランド議会への入り口  Flickrより

2016年の国民投票で、北アイルランドの住民の多くが「EU残留」を支持した。一方、DUPは北アイルランドの政党の中で、唯一「離脱」を選択している。残留を選んだ北アイルランド住民の声は下院には届かない。聞こえてくるのは、「北アイルランドを英国本土から切り離すような安全策には絶対反対」というDUPの主張のみだ。

では現在、北アイルランドの住民はブレグジットに対してどのように考えているのだろうか。

北アイルランドの住民が望む将来とは

EUと英政府が協定案に合意した昨年11月以降、DUPは安全策に反対の意を表明してきたが、「DUPの姿勢は正しかったと思うか?」と、北アイルランドの住民に聞いた世論調査がある。

スコットランド・ストラスクライド大学の教授ジョン・カーティス氏が昨年11月20日~12月3日に実施された調査の結果として明らかにしたところでは、「正しくない」と答えた人は57%、「正しい」と答えた人は37%となったという(1月21日、ロンドンのセミナーで)。DUPの選択を支持しない人が半分以上となった。

英国への帰属を重視する人々の間では、66%が「正しい」、16%が「正しくない」と答えたのに対し、アイルランドとより強い関係を結ぶことを望む人々の間では、91%が「正しくない」と答えていた。

2年前の国民投票で北アイランドでは残留派が勝利したことも考え合わせると、北アイルランドの住民の間では、「アイルランドとより近い関係を持つこと」に前向きの見方をしている人が少なからずいると言えそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、女性も徴兵対象に 安全保障懸念高まり防

ワールド

米上院可決の税制・歳出法案は再生エネに逆風、消費者

ワールド

HSBC、来年までの金価格予想引き上げ リスク増と

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中