最新記事

北アイルランド問題

EU離脱、一触即発の危険を捨てきれない北アイルランド

2019年1月29日(火)20時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

エコノミストのマック・ウィリアムス氏は、フィナンシャル・タイムズ紙の記事の中で、アイルランド統一の機運が生まれていることを指摘している(昨年11月30日付)。

記事の中に紹介された世論調査によると、ブレグジットによって、アイルランド統一の可能性が高くなったと思うかと聞かれ、英国(北アイルランドを除く)でインタビューされた人の中で30%が「より可能性が高くなった」と答える一方で、ほかの大部分は「変わらない」と答えた(アッシュクロフト卿による世論調査、昨年5月24日から6月5日)。

アイルランドの国民に聞いたところ、「可能性が高くなる」とした人は40%に増え、「変わらない」と答えた人とほぼ同じぐらいとなった。ところが、北アイルランドでは60%近くが「可能性が高くなった」と答えている。

ウィリアムズ氏は、2011年の国勢調査を元にして北アイルランドの宗派別の人口を年齢層によって区分けした。これによると、35歳以上の人口層ではプロテスタント系住民の割合がカトリック系住民の割合を上回ったが、これ以下の若い年齢層ではカトリック系住民の人口の方が多い。

同氏は、カトリック系住民が多数派になったとき、統一に向かう動きが将来出てくるだろうと指摘している。

2年前の国民投票で離脱が決まった時点で、アイルランドと北アイルランドとの間の人や物の行き来をどうするかが大きな課題となったわけだが、何も対処されないままに時が過ぎた。離脱交渉が進展する中で、決定を先送りにし、いつかは解決するだろうと思いながら今日まで来てしまったというわけだ。

北アイルランドの住民以外の英国人の無関心もその要因だろう。カーティス教授によれば、北アイルランドはロンドンの政界やほかの地域に住む人からすれば、遠い存在で「離脱派の明らかな過半数は、北アイルランドの和平が崩れてもブレグジットできるならいいと考えている」という。

メイ首相は29日に代替案を下院に提出する予定だが、この問題を打開できる目処はついていない。

 (在英ジャーナリスト、小林恭子)

[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『英国公文書の世界史』(中公新書ラクレ)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27

ワールド

米、エヌビディア半導体「H200」の中国販売認可を

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中