最新記事

貿易

「お得意様」は気づいたら「商売敵」に 中国の猛追へ対策急ぐドイツ

2019年1月19日(土)11時18分

協議は難航か

メルケル独首相は、関税で脅すトランプ大統領流のやり方ではなく、対話を通して問題を解決することを好む。

こうした姿勢から、ショルツ財務相は劉鶴副首相に対して、外国企業に中国市場をさらに開放するよう説得を試みるだろう。

ドイツの保険大手アリアンツ・グループは昨年11月、中国で初めて承認された外国の保険持ち株会社となった。

ショルツ財務相は今回の会談で、中国市場をさらに開放し、公正な貿易環境を整え、米国との緊張を緩和することは、中国自身の利益となると訴えると予想されているが、問題は、中国がこうした見方を共有するかどうかだ。

国内企業への国家的支援と外国企業に対する制限という中国政府の「合わせ技」は、中国メーカーによる国内EV市場支配と、大規模輸出の足がかりを築いた。

課題は独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の計画に見て取れる。同社は向こう数年間でEVに巨額投資を行う。これは、世界の自動車メーカーによる約3000億ドル(約32.5兆円)規模に上る投資増強の一部だが、その半分近くは中国向けだ。

中国の大手メーカー2社と合弁事業を長年行ってきたVWのハーバート・ディエス最高経営責任者(CEO)は、「フォルクスワーゲンの未来は中国市場で決まる」と述べている。

ショルツ財務相は北京滞在中、ドイツが中国や人民元建ての金融商品の欧州拠点となるよう求めるだろう。

銀行が一部の業務をロンドンからフランクフルトに移管する中で、ドイツは英国の欧州連合(EU)離脱からの恩恵を期待している。

ドイツの宿題

一方、ドイツ国内では、「ライバル」としての中国の台頭を受け、自国の知識経済を保護し、先細る輸出を補うために必要な国内需要を刺激するなどの対策が講じられている。

内需主導の成長に向けた転換はドイツにとって大きな変化だ。第2次世界大戦後に起きた「経済の奇跡」は主に輸出によって成し遂げられてきた。

ドイツ政府は先月、欧州域外からの投資家による自国企業への出資を審査し、場合によっては阻止する規制強化を決定した。戦略的分野において、中国人投資家による好ましくない買収を回避する狙いがあるとみられる。

ドイツはまた、輸出で得られた余剰金の一部を国内刺激策や経済のリバランスに充てたいと考えている。

子ども手当は今年増額される予定であり、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の議員たちは新たな減税を検討している。

メルケル氏から昨年、CDU党首を引き継いだクランプカレンバウアー氏とアルトマイヤー経済相は、景気低迷を阻止する刺激策として、減税を行うべきだと主張している。

「政府が現在、実行もしくは検討している財政措置は、確実に経済を今年後押しするだろう」と、バイエルン州立銀行のステファン・キパー氏は言う。

「国内需要がさらなる輸入増をもたらすなど、一部でリバランスが進行しつつある。ただし、これまで政府が決定した財政措置では、ユーロ圏経済全体を大きく後押しするには不十分だろう」

VPバンクのトーマス・ギツェル氏も同じ意見だ。「今こそ政府が大規模なインフラ支出を行う時だ」と同氏は述べた。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

Michael Nienaber

[ベルリン 15日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中