最新記事

アフリカ

希少なアフリカゾウを殺戮する側の論理

License to Kill

2019年1月15日(火)17時00分
レイチェル・ヌワー(科学ジャーナリスト)

野営地の管理責任者だったドジメト・セイドも撃たれたが、なんとかやぶの中に逃げ込んだ。血を流し恐怖に震えながら、彼は密猟者たちがレンジャー所有の馬4頭に武器や弾薬を積んで逃げていくのを見届けた。

数時間後、彼は勇気を振り絞って野営地に戻った。仲間2人の遺体を小屋に運び、残る3人の遺体は(もう体力が残っていなかったので)防水シートで覆った。そして歩いて(時には泳いで)約20キロ先にある最寄りの村に行き、助けを求めた。

連絡を受けたザクーマ国立公園のスタッフは、予想だにしていなかった事態に衝撃を受けた。しかし冷静になって考えれば、密猟者たちにもこれ以外の選択肢はなかったと分かる。

「手ぶらでスーダンに戻って、失敗だったで済む話ではないだろう」とリアンは言う。「獲物がなければ、彼ら自身が殺されることになる」

ラブスカフニ夫妻は密猟者たちを捜そうとしたが、危険過ぎるという理由でチャド当局の許可が下りなかった。死亡したレンジャーの多く(襲撃時に逃げたきり音信不通のハサン・ドジブリンも、その後死亡したものと思われる)には複数の妻がいて、子供は15人以上。そして家族の中で唯一の稼ぎ手だった。

仲間を殺した者たちをなんとしても捕らえたかったラブスカフニ夫妻は、密猟者たちの携帯電話や衛星電話から150超の電話番号(全てスーダンとチャド国内の連絡先)を割り出し、警察に証拠として提出。ビラを配って情報提供者には報奨金を提示したが、成果はなかった。

そんななか、独自に事件を調べていたレンジャーの遺族の1人が、国境地帯に近い村に潜む密猟者の1人を捕らえた。

男の名前はソウマイン・アブドゥレイ・イサ。わりと小柄で「死を恐れない様子の男」だったとリアンは言う。

イサは85年にチャドで生まれ、もっぱら遊牧生活を送っていた。ある日、隣国スーダンのダルフール地方にある砂漠の町クトゥムを通った際に、チャドで象の密猟を行う準備をしている男たちの話を耳にした。いい小遣い稼ぎになるぞ。そう思ったイサは彼らに声を掛けた。

密猟グループの首領モハメド・アル・ティジャニ・ハムダンには「臆病者を見分ける目」があったとイサは言う。「相手の目を見て戦士かどうかを判断できた。勇敢で、自分に付いてこられる人間かどうかを」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中