最新記事

人権問題

拘束のサウジ女性は強制送還から一転、難民審査へ 事態急転の背景にタイ軍政の思惑?

2019年1月10日(木)21時20分
大塚智彦(PanAsiaNews)

強制送還の恐れから一転、亡命の道が開けたラハフ・ムハンマド・クヌンさん(左から2人目)が、タイ入国管理局職員と握手した。Thai Immigration Bureau / REUTERS

<「帰国すれば殺される」という衝撃的なツイートで亡命を求めたサウジ女性。タイ政府が強制送還を取りやめた背景には政治的な思惑があった──>

タイ・バンコクの国際空港で入管当局に一時身柄を拘束されたサウジアラビア国籍の18歳の女性が身の危険を理由に第三国への亡命を求めて空港内の施設に閉じこもる事件が起きた。身柄の引き渡しを求めたとされるサウジ当局に対し、この女性がインターネットを通じて救援を求めたところ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が動きだし、タイ移民局も協力する形でオーストラリアが政治難民として受け入れる方向で準備を始めた。

サウジアラビアは在トルコ総領事館内でジャーナリストのジャマル・カショギ氏を殺害する事件を起こして国際的な批判を浴びるなど、人権問題を抱える国として認知されている。今回も水面下での女性送還を試みたものの、国際世論とそれに押された形のタイ政府により、強制送還に失敗するという失態を演じた形となり、国際的評価をさらに落とした。

1月5日にバンコクのスワンナプーム国際航空に到着したサウジアラビア国籍のラハフ・ムハンマド・クヌンさん(18)がタイ入管当局者によって身柄を拘束されたことが事件の発端となった。

タイ移民当局は「旅券や往復航空券、宿泊予約書など必要な書類を所持していないかったことによる通常の手続き」での拘束としているが、クヌンさんによると、入国審査前に接触してきたタイのサウジ大使館関係者によって旅券を没収されたという。

いずれにしろ、クヌンさんはサウジに強制送還されることになり、その手続きが始まり、タイ当局も当初は「サウジに送還されることになるだろう」(プラウィット副首相)と、サウジ政府の意向に沿った解決策を示していた。

ところが身柄を拘束されたクヌンさんが携帯電話を通じて「サウジに送還されれば命の危険がある」とツイッターに投稿。拘留された空港内ホテルの一室でドアの前にマットレスを立てかけるなどして「籠城」した。

彼女のツイッターでの訴えに対して約45,000人がフォローやリツイートしたことで騒ぎが大きくなり、西側メディアも続々と事態を報道し始めた。そしてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が介入に乗り出すに従い、1月7日にタイ当局も「送還して死に直面するような事態が予想されるなら、タイとしては送還するようなことはしない。タイは微笑みの国である」とそれまでの方針を180度変えてクヌンさんの立場に理解を示し始めた。

救いの手を求めたクヌンさん
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ次期大統領、予算局長にボート氏 プロジェク

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中