IoTやAI活用で香港、韓国に大きな後れのニッポン 技術者不足を海外に依存する悪循環
若手育成阻む業界の構造
日本国内でも、ITベンダーやユーザー企業に数多くのエンジニアが雇用されている。それなのに、どうして最新デジタル技術が扱えないのか。
日本企業と外資系の計10回の転職を経験した「システムエンジニア」(SE)の男性(40)は、IT企業界の構造的問題と長時間労働が要因と指摘する。
同氏は、ユーザー企業からのシステム発注を元請けする企業の下に、重層的に連なる下請け企業の構造的な問題点を指摘する。
下請け企業に勤務していた時は「毎日、終電での帰宅が続き、ユーザーのオフィスに常駐することも多かった。週に70時間以上の労働時間が普通だった」と振り返る。無給での残業が続くこともあり、待遇面での不満が大きかったという。
場当たり的な請け負い構造となっており、昇進・昇給体制も整わず、転職によって待遇改善を図る以外に道が見えないという業界構造も、将来への不安をかきたてたと話す。
最新技術を習得しようにも「長時間労働に追われて、勉強の時間も取りにくい状況がある」など、時間的余裕もない働き方が、レベルアップの足かせになっていたとみている。
デジタル競争力、日本は22位
こうした状況を受けて、安倍晋三首相は昨年12月17日、自民党「人工知能未来社会経済戦略本部」の塩谷立本部長に対し、AIの利用を推進するため「人材が決定的に不足している。しっかりと育成していくべきだ」と述べ、人材育成に意欲を示した。
すでに日本のデジタル競争力は、他の先進国に大幅に遅れをとっている。スイスのIMDが発表した2018年のデジタル競争力ランキングで、日本は22位。1位は米国、2位はシンガポール、香港が11位、韓国が14位など、他のアジア勢の後塵を拝している。
経済産業省商務情報政策局が16年6月にまとめた「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」では、「ビッグデータ」「IoT」「人口知能」を担う人材の不足は、18年に3.2万人、20年には4.8万人へと拡大する。
同省では「第4次産業革命スキル習得講座認定制度」を17年7月に創設し、ようやく18年4月に初回認定講座を開講し、厚生労働省と連携して助成金制度も設けた。
「今は、世界中で先端情報技術者が不足し、奪い合いとなっている状況。日本がいつまでも海外人材に頼っているのは現実的ではなく、しっかりと国内で育成する制度が必要」(商務情報局)と現状を分析し、ようやく政府主導で人材育成の本腰を入れ始めた。
だが、技術進歩はさらに加速する動きを見せ、他方で少子化の影響から技術者の確保が年々難しくなるという苦境に直面している。
安倍首相の音頭で、どこまで先端技術者の育成が進むのか。その成果によって、今後の日本経済の成長力も左右されそうだ。
(中川泉 編集:田巻一彦)
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