フィリピン、イスラム教徒の自治認める投票めぐり爆弾テロで21人死亡 報復テロも発生、泥沼化の恐れ
バンサモロ基本法住民投票への反発か
フィリピンでは南部のイスラム教徒が多数居住する地域を中心に自治権を求めて中央政府との紛争が続いていたが、2018年7月に両者が和解。イスラム自治政府を創設する「バンサモロ基本法」が成立した。これを受けて自治政府への参入の可否を問う住民票が1月21日にミンダナオ島の北ラナオ州、コタバト州、スルタン・クダラット州、島嶼部のバシラン州、スールー州とコタバト市、イザベル市などで実施された。
これまでの集計結果では登録投票者198万人のうち148万人がイスラム自治政府への参加に賛意を示した。賛成多数の地域では2022年の創設を目指す自治政府で、外交や国防以外の権限を有することになる。
ところがスールー州では反対票が52%と賛成票を上回ったものの、各州各市の個別集計ではなく全体の集計結果で決まることから、スールー州の投票結果が反映されない事態となっていた。
このためスールー州を拠点とする「アブサヤフ」は「政府主導の和平プロセスへの不満」や「自治政府に認められる権限が不十分」であるとして強い不満を抱いていたという。
さらに自治政府創設に前向きで政府との交渉を主導しているミンダナオ島のイスラム教過激派組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」への反発も「アブサヤフ」内部にはあったとされ、今回の爆弾テロと住民投票との関連を治安当局は調べている。
大統領、テロ根絶に強硬な姿勢表明
現場を視察したドゥテルテ大統領は「私はいつも言っている。アブサヤフや新人民軍(NPA)、麻薬犯罪組織などの国家の敵を根絶、殲滅しろと。彼らを懲らしめなければならない」と強い姿勢を示した。
そのうえで事件について「アブサヤフによる自爆テロ」との見方を示し、「いかなる方法でも構わないのでアブサヤフという組織を徹底的に破壊、殲滅せよ」との指示を出した。治安部隊に対しては「行け、そして殺せ。(敵の)投降は認めない。なぜなら投降した彼らに食事を提供しなければならず費用がかかるからだ」と激しい調子でテロに対する憎しみの感情を吐露した。
フィリピン国軍のノエル・デトヤト広報官によるとザンボアガ、バシラン、ホロなどのキリスト教会に対するテロの情報が寄せられていたため、2018年8月から警戒監視を強めていたという。今回爆弾テロの被害にあった教会にも24時間態勢で警戒態勢がとられていたため「犯人がどうして教会内部に入れたのか、警備していた兵士が死亡したので原因は不明だ」と地元紙に話している。
フィリピン捜査当局は報奨金の金額は近く発表するとしながら、爆弾テロの犯人、犯行組織に結びつく情報提供を国民に呼びかけている。
日本外務省はスールー州などフィリピン南部に対しては「危険情報レベル3(渡航中止勧告)」を出して注意、警戒を呼びかけている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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