貿易戦争が破壊するサプライチェーン 中国脱出組が東南アジア争奪戦へ
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11月29日、中国に対する米関税の対象範囲が拡大し、関税率もさらに高くなる可能性などから、企業の間で新たな生産拠点とサプライヤーの争奪戦が激化している。ベトナム・ハノイ近郊の衣料品工場で2015年10月撮影(2018年 ロイター/Nguyen Huy Kham)
フレッド・ペロッタさん(33)は、流行のリュックサックを製造する自社工場に部品を提供する中国の供給網を築くのに4年かかった。だが、米国が中国製品の約半分に関税をかけると発表するとすぐに、他国のサプライヤーを探し始めたという。
たとえトランプ米大統領と中国の習近平国家主席が、今週末に行われる20カ国・地域(G20)首脳会議で過熱する貿易戦争に終止符を打ったとしても、他のサプライヤーへの移行は今ではだいぶ進んでいるため後戻りはできないと、ペロッタさんは言う。
2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して以降で最大の変化が、グローバルサプライチェーンに起きていると専門家は指摘する。ペロッタさんの会社「トルトゥガ」もまさにその渦中にある。
こうした変化は、中国の近隣国に新たな工場を確保し、世界の製造業の5分の1の拠点である中国の外に供給網を築こうとする激しい競争を生んでいる。
「みな神経質になっていて、われ先にと奪い合っている」とペロッタさんは米カリフォルニア州オークランドから電話でこう述べた。ペロッタさんは最近、ベトナムの新たなサプライヤー候補からサンプルを初めて受け取ったという。
「長期的に、すべてをシフトすることになるだろう」
中国に対する米関税の対象範囲が拡大し、関税率もさらに高くなる可能性や、近隣の新興国が「先着順」でしか新規ビジネスを受け入れられないのではないかとの恐れから、新たな生産拠点とサプライヤーの争奪戦は激化している。
ベトナムとタイが望ましい拠点候補として浮上しているが、行政手続きや熟練労働者の不足、限定的なインフラなど受け入れ能力に制約がある。
熱狂
ロイターはさまざまな業界の経営者や通商専門の弁護士、ロビー団体から10人以上に取材。その結果、この数カ月で、アジア全土にわたり活動が過熱していることが明らかとなった。経営者は製品サンプルを取り寄せたり、工業団地を視察したり、弁護士を雇ったり当局者と面会したりしている。
家具メーカーの敏華控股は6月、ベトナムの工場を6800万ドル(約77億円)で購入した。2019年末までに同社の生産規模を現在の約3倍となる37万3000平方メートルに拡大する計画だとしている。
「工場獲得は関税によるリスクを軽減するためだ」と同社は声明で語った。