貿易戦争が破壊するサプライチェーン 中国脱出組が東南アジア争奪戦へ
ベトナムに拠点を置く工業不動産デベロッパーのBWインダストリアルによると、10月から問い合わせが急増しており、同社が扱う工場は全て契約済みという。
「世界中から製造業者がやって来るが、彼らの工場は中国にあるのですぐに生産を始める必要に駆られている」と、BWインダストリアルのクリス・チュオン営業部長はロイターに語った。
電子機器受託製造サービスを提供するタイの企業「SVI Pcl」は、中国に拠点がある既存顧客と、計1億ドル相当の契約を新たに4本結んだ。
「貿易戦争はわれわれに有利だ」と、Pongsak Lothongkam最高経営責任者(CEO)は話す。「多くの企業から引き合いがあるので、優先順位を決めなくてはならない」
カンボジアも注目を集めている。米ニュージャージー州パーシッパニーに拠点を置く自転車メーカーのケント・インターナショナルは生産拠点を中国から同国に移転する。
「米国での売れ行きが好調なため、中国からできるだけ早く生産拠点を移すしかなかった」と同社のアーノルド・カムラーCEOは語った。
混乱
中国経済がサービスや消費、ハイテク製品へと移行する中、サプライヤーや生産拠点の変更は、すでに確立されていた傾向を加速させるものだ。
「われわれは、この1世代で最大の調達面の混乱を目の当たりにしている」。米アパレル・フットウエア協会(AAFA)のスティーブン・ラマー副会長はこう語る。同協会の1000社以上の加盟社は、年間4000億ドル以上を米国内で売り上げている。
「企業から最もよく聞くのは、『中国から脱却して多角化することを何年も検討してきたが、今それを実行に移す時だ』というものだ」
生産拠点の移行には長い年月を要することもある。企業は資金を確保し、適切なサプライヤーを探し出し、新たな物流管理拠点を整備しなくてはならない。同時に、不慣れな国で新たな法律上や財務上の問題に対処する必要がある。
「中国からの移転は非常に時間がかかり、先を読むのは難しいだろう」と、アクサ・インベストメント・マネージャーズのアジア新興国担当シニアエコノミスト、エイダン・ヤオ氏は言う。
低技術製品や低価格製品の生産拠点は移転が容易な一方、機械や輸送、IT分野の高付加価値な輸出品の場合は、高い研究開発費や中国の安い人件費のため、移転には何十年も要する可能性が高いと、UBSは今月のメモに記している。
だが、シティが先月実施した地域の顧客調査では、半数以上が自社への影響を軽減するためサプライチェーンをすでに調整していることが明らかとなった。
ただし、オートメーションのような分野に長けている中国を、1国だけで代替することはできないと、サンドラー・トラビス&ローゼンバーグ法律事務所の通商専門弁護士サリー・ペン氏は指摘する。
「どの企業も中国のほかに1国、2国、3国を加える戦略を模索している。はるかアフリカにまで」と同氏は語った。
今週にブエノスアイレスで開かれるG20に合わせて米中首脳会談が行われる予定だが、貿易摩擦で和解をみることに企業はほとんど希望を抱いていない。
トランプ大統領は26日、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げるとの見通しを示した。