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地球温暖化と戦う深海の「炭素貯蔵庫」を研究者が発見

Great Barrier Reef’s Seagrass Is Major Blue Carbon Sink

2018年12月14日(金)16時00分
ハナ・オズボーン(サイエンス担当)

グレートバリアリーフ周辺の深海には炭素を吸収する海草の巨大な生態系が Maerie/iStock.

<グレートバリアリーフ周辺の深海に、大量の炭素を吸収する巨大な生態系があった>

オーストラリア北東部沿岸に広がるサンゴ礁地帯グレートバリアリーフに、大量の炭素を吸収する海草などの生態系があることを、オーストラリアの研究グループが発見した。広さはニュージャージー州の面積の2倍にあたり、約2800万トンの炭素を貯蔵している。気候変動を緩和する一助になるかもしれないとして注目だ。

こうした海の生態系はマングローブや海草、塩性湿地などから成り、二酸化炭素を吸収し貯蔵する。オーストラリア・ディーキン大学のピーター・マクリーディ準教授はこれまで、グレートバリアリーフで海草の炭素貯蔵能力を調査してきた。

現地調査の中でマクリーディは、サンゴ礁周辺の深海に海草が生息する広大な海域があることを知った。「この深海の海草が相当規模の炭素を貯蔵しているかどうか、調べるべきだと考えた」

マクリーディは、オーストラリアの他の大学の研究者と共同で、深さ15メートル以上の深海と、中間の海中、浅い海中のそれぞれの炭素貯蔵量を比較した。そして深海部の海草が浅い海中の海草と同レベルの炭素を吸収しているという分析結果を得た。

「強力な自然兵器」

生物学の専門誌「バイオロジー・レターズ」で掲載した論文の中で、マクリーディら研究グループは、他の深海の海草藻場も同様の量の炭素を貯蔵できるかどうか検証し、グレートバリアリーフ全体で2740万トンの「ブルーカーボン(海の炭素)」が貯蔵されていると結論付けた。

マクリーディは「ここまで大量の炭素が貯蔵されているとは知らなかった」と述べている。調査した海域が限られているため、全体の炭素貯蔵量は推定値でしかないが、それでもこれまで考えられていたブルーカーボンより多量の炭素が貯蔵されていることを示している。

「これらの"ブルーカーボン生態系"は気候変動と戦う強力な自然兵器だ」とマクリーディは言う。「すごい朗報だ。我々は新たな資産を発見した。誰も知らなかった炭素貯蔵庫だ」

多くの科学者が今、養殖や農業、環境汚染、マングローブの森の開発などでブルーカーボン生態系が破壊されることを恐れている。現時点では、深海の海洋生態系が地球環境を維持するうえでどの程度の能力があるのか、ほとんどわかっていない。

「深海の生態系は天候などの異変に対する抵抗力が強いので、浅い海域の生態系よりも回復力が強いのではないか。サンゴ礁など浅い海域の生態系は現在、地球的規模で壊滅的な打撃を受けている」と、マクリーディは言う。

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