マレーシア当局、前政権の1MDB汚職事件でゴールドマンを起訴 元社員ら4人も
政権交代で捜査のメス本格化
マレーシアは2018年5月9日の下院総選挙で史上初の政権交代が実現し、マハティール元首相が首相の座に返り咲いた。そしてナジブ前首相やナジブ政権の汚職、不正問題の徹底捜査、解明を優先して進めてきた。
ナジブ政権下で設立された1MDBは当初は不動産や電力事業などへの投資で国内産業の底上げ、振興を目指す目的だったが、次第に債務がかさみ、その一方で早い段階から不正資金流用疑惑が浮上していた。
しかし、設立を積極的に後押ししたとされるナジブ前首相が疑惑を全面的に否定するなかで本格的な疑惑追及には踏み切れなかった経緯がある。
政権交代を目指したマハティール元首相率いる野党が公約の一つとして掲げたのがナジブ政権の不正、汚職の徹底解明だったことから、政権交代実現で1MDBに関連した巨額の債務問題と不正資金流用問題が改めて浮上、捜査が本格的に始まることになった。
マハティール首相は11月13日、テレビとのインタビューで1MDB 疑惑に関連して「ゴールドマン・サックスが不正を働いた証拠がある。ゴールドマン・サックスは明らかにマレーシアを騙した」と述べて、厳しい姿勢で臨むことを明らかにしていた。
ナジブ前首相は1MDBの関連会社を経由して個人口座に巨額の資金が流入した容疑が濃厚となり、前首相はじめ当時の関係者への捜査、刑事訴追の手続きが進められた。
その結果、ナジブ前首相は検察側から7月に背任罪、収賄罪、職権乱用罪などで起訴され、8月には資金洗浄(マネーロンダリング)容疑などで追起訴されている。
だがナジブ前首相は全ての容疑で無罪を主張しており、裁判の長期化の懸念もでている。
今回マレーシア側がゴールドマン・サックスを相手取って起訴に持ち込んだことで、1MDBを巡る巨額の不正資金流用問題と債務問題に本格的な司法のメスが入ることになり、全容解明に向けて大きな前進となりそうだ。このため疑惑追及をマハティール首相率いる野党に託したマレーシア国民は、裁判の行方に注目と期待を寄せている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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