最新記事
定年後

「人生100年時代」の暮らし方──どう過ごす?! 定年後の「10万時間」

2018年12月10日(月)15時00分
土堤内昭雄(ニッセイ基礎研究所 社会研究部 主任研究員)

1―3つの寿命

       ◇◇◇

1|平均寿命より健康寿命

長寿時代を生き抜くために健康志向が強まることは必然だ。日本では健康増進法に基づき、2000年に『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』が始まった。2013年には全面改正が行われ、『健康日本21(第2次)』には健康増進のための基本方向として、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」が掲げられている。

日本人の平均寿命は、2001年から2010年の10年間に男性で1.48年、女性で1.37年延びた一方、健康寿命の延びは男性で1.02年、女性で0.97年にとどまっている。つまり不健康な期間が、男性で0.46年、女性で0.4年長くなっているのだ。そのため『健康日本21(第2次)』では、「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」を目標にしている。

多くの人は健康に長生きしたいと願っているが、2016年の健康寿命は、男性72.14歳、女性74.79歳。健康寿命と平均寿命との差は、男性8.84年、女性12.35年もある。平均寿命が延びる長寿時代とは、寿命が延びる一方で、介護・看護が必要な期間が長くなり、要介護のリスクが高まる時代でもあるのだ。

1207100nen01.jpg

2|シニア層の健康志向

最近のフィットネスクラブを覗くと、どこも元気なシニアの人たちであふれている。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、平成29年のフィットネスクラブの売上高は3,330億円、延べ利用者数は2億5,200万人と、増加の一途をたどっている。その背景には長寿化に伴うシニア層の根強い健康志向がある。

厚生労働省の「平成29年国民健康・栄養調査の結果の概要」をみると、運動習慣のある者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、全体で男性35.9%、女性28.6%だが、年齢階級別では60代の男性が42.9%、女性が29.6%、70歳以上では男性45.8%、女性42.3%にのぼる。男女ともに運動習慣のあるシニア層が多くなっている。

退職後も生き生きと暮らすためには、地域や社会との関係性を維持することが重要だが、定年後に社会的孤立に陥る人も多い。フィットネスクラブに通うシニア層には、身体的な健康だけではなく、ほかの人々との会話やつながりを通じたメンタルヘルスも不可欠だ。むしろそのような効果の方が、長寿時代にはより重要なのかもしれない。

3|重要な主観的健康寿命

幸せに暮らすためには健康寿命を延ばすことが重要だが、「自分が健康であると自覚している期間」(主観的健康寿命)にも留意する必要がある。『健康日本21(第2次)』によると、同期間は客観的健康寿命を下回り、2001年から2010年までの延びは、男性で0.35年、女性で0.37年に過ぎないという。

人が幸せになる条件のひとつとして「健康」を挙げる人は多い。しかし、高齢化が進展すると加齢により健康状態が万全でなくなるのは当然のことだろう。だれもが老化による衰えを経験する時代には、『なにがあっても健康でなければならない』という過度の健康志向に縛られる必要はない。65歳時の健康余命を意識しながらも、上手に「老いること」と向き合うことが大切だろう。

「人生100年時代」を幸せに生きるために、客観的な健康寿命を延ばす努力は当然すべきことだが、同時に超高齢社会では何らかの健康上の制約があっても自らが幸せと思える主観的健康寿命が大切だ。ケガや病気などともうまく付き合い、老化を自然体で受け容れることが重要ではないだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中