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「人生100年時代」の暮らし方──どう過ごす?! 定年後の「10万時間」

2018年12月10日(月)15時00分
土堤内昭雄(ニッセイ基礎研究所 社会研究部 主任研究員)

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2―定年後の生活時間

  ◇◇◇

1|「余生」ではなくなった「老後」

総務省の『社会生活基本調査』は、1日の生活時間を1次活動(睡眠、食事など生理的に必要な活動)、2次活動(仕事、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動)、3次活動(これら以外の各人が自由に使える時間における活動)の3つに分類している。近年の生活時間の変化の特徴は、2次活動が減少し、3次活動が増加していることだ。

戦後の高度経済成長は長い労働時間によって支えられ、人々の趣味や娯楽、スポーツや旅行、学習や社会参加等の3次活動を行う時間は少なかった。しかし、社会が成熟化するとともに労働時間は短くなり、自由時間は長くなった。これまで余った暇に過ぎなかった「余暇」は、生活を豊かで潤いあるものにするための貴重な時間になった。

戦後まもなくは、「人生50年時代」と言われてきた。結婚し、子どもを生み・育てる人口の再生産が済むと人生の大きな役割が終わった。その結果、その後の人生は余った人生「余生」と呼ばれたのだ。今や日本は世界有数の長寿国になり、「余生」と考えられてきた期間は長く、それは決して人生の「余り」とは言えないきわめて重要な人生の収穫期になったのである。

2|定年後の「10万時間」

『平成28年社会生活基本調査』の65歳以上の高齢者生活時間をみると、1次活動が11時間38分、2次活動が4時間00分、3次活動が8時間22分だ。人生100年時代が来れば、高齢期の自由時間は10万時間以上にも達する。もはやわれわれの老後は「余生」ではないのだ。

厚生労働省『平成28年簡易生命表』によると、65歳の平均余命は男性19.55年、女性24.38年だ。おおよそ男性は85歳まで、女性は90歳まで生きられる計算になる。65歳以上の3次活動時間は男性が9時間11分、女性が7時間44分ある。65歳で定年を迎えた男性は、その後の寿命を迎えるまでの20年間に6.7万時間の自由時間を有するわけだ。

一方、日本の就業者の2015年一人当たり年間総実労働時間は1,719時間だ(労働政策研究・研修機構)。20歳から65歳まで45年間働いた場合、生涯労働時間は7.7万時間になる。それと比べても、男性の定年後の自由時間がいかに長いかがわかる。定年後を幸せに生きるためには、健康や経済面の問題に加えて、あらたな人間関係についても考えることが重要になるだろう。

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3|「定年」は「退職」ではない

「定年」とは、『官庁や企業などで退官・退職する決まりになっている一定の年齢』(新明解国語辞典)とある。一般的には「定年退職」という言葉が使われることが多いが、その理由は、これまで多くの人が終身雇用制のもと同一企業で働き、「定年」を迎えることはすなわち「退職」を意味したからだろう。しかし、今日では定年後も嘱託で雇用を継続したり、あらたに個人事業主になって働いたりする人も増えており、必ずしも「定年」=「退職」とは限らないのである。

人生100年時代の生涯現役社会では、多くの人にとって、「定年」が「退職」を意味するのではなく、年齢の定めのないあらたな仕事への船出になるのかもしれない。政府には、同一企業での定年や雇用の延長だけでなく、定年後に個人が自らの能力を十分に活かせるような「雇われない」働き方が柔軟にできる就業環境の整備が求められる。長寿化した人生において定年はひとつの通過点であり、あらたな社会との関係性を構築する好機でもあるのだ。

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