内戦の趨勢が決したシリアで、再びアレッポ市に塩素ガス攻撃が行なわれた意味
シリア軍の非武装地帯内への砲撃で一気に緊迫化
非武装地帯が設置されたことで、シリア軍と国民解放戦線の戦闘はほぼ収束した。ロシア国防省の発表によると、9月17日から11月17日までの2ヶ月間で、停戦違反は依然として530回(1日平均で8回強)を記録した。だが、このうちトルコの監視チームが確認したシリア軍の違反は21件だけで、それ以外の違反は、ほとんどが「テロ組織」によるものだった。
非武装地帯での「テロ組織」の排除と反体制派の重火器撤去の責任はトルコが担った。だが、「テロ組織」はこれに抗った。シャーム解放機構とイッザ軍が11月9日にハマー県北部でシリア軍への攻撃を激化させると、フッラース・ディーン機構、トルキスタン・イスラーム党、コーカサスの兵も、ラタキア県北東部、イドリブ県南東部でこの動きに同調した。交戦を控えていた国民解放戦線は、戦火に巻き込まれるかたちで、アレッポ県西部でシリア軍との散発的衝突を余儀なくされた。
11月24日、シリア軍が非武装地帯の内側に位置するイドリブ県ジャルジャナーズ町の学校を砲撃し、子供4人と女性3人が死亡すると、事態は一気に緊迫化した。この停戦違反に対して、国民解放戦線の幹部でヌールッディーン・ザンキー運動報道官のアブドゥッサラーム・アブドゥッラッザーク大尉は、ツイッターのアカウントで「我々はお前たち(シリア政府)にただちに復讐を行う準備をしている、殉教者たちの魂をもう無駄にはしない」と述べ、報復を約束したのである。
反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤによると、この言葉を行動に移すかのように、「革命家たち」(所属は不明)は、イドリブ県南東部のアブー・ダーリー村、アレッポ県南部のハーディル村、アレッポ市西部の軍事アカデミー、ザフラー協会(ジャムイーヤト・ザフラー)地区にあるシリア軍と「イランの民兵」の拠点にただちに砲撃を加えた。そして、この直後、SANA(シリア・アラブ通信)やイフバーリーヤ・チャンネルといったシリアの主要メディアは、アレッポ市西部のハーリディーヤ地区、ナイル通り地区、ザフラー協会地区が有毒ガスを装填した砲弾の攻撃に曝されたと報じたのである。
SANAによると、攻撃で市民107人が呼吸困難などの中毒症状を起こし、市内の病院に搬送された。アレッポ県のズィヤード・ハーッジ・ターハー医療局長は、患者の症状から塩素ガスが使用された可能性が高いとの見方を示した。
一夜明けた25日、ロシアが、一次情報に基づくとして、攻撃に関する詳細な事実関係を明らかにした。イゴール・コナシェンコフ国防省報道官は「負傷者の症状は、砲弾に塩素ガスが装填されていたことを示している」としたうえで、シャーム解放機構支配下のブライキーヤート村(アレッポ市東部)南東部郊外に設置された120ミリ迫撃砲から砲弾が発射されたと発表した。ロシア軍放射線化学生物学防護部隊のコンスタンティン・ポチョムキン報道官も、攻撃を行ったのがシャーム解放機構に所属するグループだと断定した。
なお、ロシアのスプートニク・ニュースは攻撃の数日前、フランス人専門家の一団がシリアに入り、イドリブ市内にあるシャーム解放機構の地下施設で、有毒ガスが装填可能なロケット弾に改良を加えたと伝えていた。同サイトによると、改良されたロケット弾は、アレッポ市への塩素ガス攻撃の直後に、イドリブ県各地に再配備されたという。ロシアとシリア政府は、これまでにもシャーム解放機構とホワイト・ヘルメットが、シリア軍を貶めるためにイドリブ県で化学兵器を使おうとしていると警告してきた。この主張をサポートするかのように、攻撃が敢行されたのである。