ロヒンギャを迫害する仏教徒側の論理
The Oppressor's Logic
だが、実際にラカイン州を訪れてみると、仏教徒とイスラム教徒の緊張は緩和しているどころかますます高まっているように感じられる。マバタを信奉する人は依然として多い。18年10月14日にヤンゴンで開かれた集会では、ウィラトゥがロヒンギャを擁護する国際社会を勢いよく批判した。
ミャンマー中部の都市マンダレーにウィラトゥが講師を務める大教学僧院「新マソーイェイン」がある。ウィラトゥの秘書によれば、最近はメディアの露出を控えており遊説で海外を回るか、この僧院にいることが多いという。取材のためにマンダレーを訪れると、これからウィラトゥは成績優秀な修行僧の表彰式に出席するとのことで、筆者もその式典会場に向かった。
「ビンラディン」のスマホ
会場に到着すると、既に大勢の参加者が集まっていた。ミャンマーの仏教を取材するために日本から来たと話すと、在家信者の一グループが「わざわざそんな遠いところから来てくれたなんて、感激だ!」と昼食に誘ってくれた。会場に隣接する大広間の食卓に着くと、白米、野菜炒め、濃厚な牛肉の煮込みなどが次々と運ばれてくる。
昼食に招いてくれた在家信者の面々は、皆とても礼儀正しく陽気だ。「どんどん食べてくださいね、お代わりはいかがですか?」と筆者の箸の進み具合を気にしながら、日本に住んでいる友人の笑い話を披露して場を盛り上げてくれる。
だが、隣の席の初老の男性に「ベンガル系イスラム教徒」についてどう思うかと尋ねると、害虫の話でもするかのように彼はこう吐き捨てた。
「ベンガル人はミャンマー人じゃない。それどころか、彼らはわれわれに危害を加える。この国で悪事ばかりを働く奴らを野放しにしてはおけない」
式典には約200人が出席しており、マバタのほかの僧に交じってウィラトゥの姿も見えた。幹部の中では比較的若く、役職も講師レベルのウィラトゥは右はじのほうに座り、式典中も長老たちの説教をおとなしく聞いている。だが1時間を過ぎた頃から、隣の席の僧とヒソヒソ話をしたり、スマホをいじりだしたりして(ケースの色はピンク)、揚げ句の果てに居眠りを始めた。
式典も終わりに近づき、成績優秀者たちに賞状を手渡す段でやっと出番が来たウィラトゥは型どおりの短い説法を始めた。中背だが、僧衣からのぞく腕は筋骨隆々でたくましく、二の腕の内側に小さな魚のタトゥーが見えた。まなざしは鋭く、声には他者を威圧する攻撃性があり、僧侶らしい雰囲気は皆無だ。
式典が終了すると、多くの在家信者や修行僧たちが一斉にウィラトゥの下に殺到した。筆者もその輪に近づき、日本から来た記者で、ロヒンギャ問題についてどう思うか聞きたいと声を掛けた。すると突然、目つきが険しくなりウィラトゥは静かにこう言った。
「気を付けたほうがいい。日本もイスラム化が進んでいる。どこかの小都市に既にベンガル人のコミュニティーがあるはずだ」。そして、彼は窓がスモークになっている黒いバンに素早く乗り込み、会場を後にした。
利権に群がる軍と中国
式典に出席していたマバタの幹部僧ウピニャタマミ(57)に、ウィラトゥをどう思うかと尋ねると誇らしげにこう答えた。「彼は仏教の守護者で、ミャンマー仏教界の真のリーダーだ」