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ミャンマー

ロヒンギャを迫害する仏教徒側の論理

The Oppressor's Logic

2018年11月20日(火)14時45分
今泉千尋(ジャーナリスト)

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「ロヒンギャの蛮行」を告発するパネル(マンダレー) LAUREN DECICCA/GETTY IMAGES

イスラム教徒への嫌悪感

そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの人が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苦しんでいる。

ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。談笑していたある男性にこの問題についての見解を尋ねると、「不法移民であるベンガル人の話はしたくない」と会話を中断された。英語教師だという女性は「イスラム教徒に暴行されるのが怖くて、娘も私も夜は外出できない」と憤った。

ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。

11年にミャンマーで民政移管が起きると、ウィラトゥは民主化で解禁されたばかりのSNSを駆使して、イスラム教徒に対するヘイトスピーチをまき散らした。その多くは、国内外で起きたイスラム教徒による(とされる)テロや殺人、性暴力の事件を伝えるもので、過剰に誇張されたものやフェイクニュースも少なくなかった。内容は残酷の一言につき、目を覆いたくなるような血まみれの被害者の写真に、次のような過激なコメントが寄せられていた。

「ベンガル人(ロヒンギャのこと)は不法移民のくせに、他人の土地で狼藉を働いている!」「奴らは狂犬だ! 仏教徒の女性を犯して野放図に子供を産ませ、われわれの国を乗っ取ろうとしている」「ミャンマーをイスラム化から守れ!」

ウィラトゥはこうした過激な言動で、貧困層を中心に熱狂的な支持を集めるようになった。地元紙のイラワジによれば、ウィラトゥのフェイスブックは17年6月の時点で40万人ものフォロワーがいた(現在は削除)。

16年にアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が総選挙で圧勝すると、宗教対立の先鋭化を懸念した新政府はマバタの活動を規制しようとする。仏教僧の最高管理組織「サンガ・マハ・ナヤカ委員会(通称マハナ)」もこれに同調し、17年3月にはウィラトゥに1年間の説法中止を、5月にはマバタの名称を使った活動を禁ずる勧告を発令した。

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