最新記事

BOOKS

「パパ活」という言葉はマーケティング会議の中で生まれた

2018年11月20日(火)12時00分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<愛人契約や援助交際と何が違うのか。「ある種の希望」と「ある種の絶望」が感じられると『パパ活の社会学』著者は言うが......>

『パパ活の社会学――援助交際、愛人契約と何が違う?』(坂爪真吾著、光文社新書)は、近年よく耳にするようになった「パパ活」(女性が年上の男性とデートをして、見返りに金銭的な援助を受ける"活動")を考察した新書。

著者は、社会的な観点に基づいて現代の性問題の解決に取り組んでいる人物だ。本書は、以前取り上げたことのある『はじめての不倫学』(光文社新書)の続編にあたる(参考記事:「不倫はインフルエンザのようなもの(だから防ぎようがない?)」)。

パパ活に関わっている複数の男女にインタビューし、交わされる金額、年齢・職種についてなど、これまであまり明かされる機会のなかった「パパ活のリアル」を浮き彫りにしている。つまり机上の空論ではなく、緻密な取材に基づくファクトが軸となっているのである。

著者は最初、パパ活などという軽薄な言葉は、どこかのマーケターが考えた専門用語で、愛人契約や援助交際の単なる言い換えにすぎないと考えていたそうだ。その中で行われていることも、現代社会における男女間の経済格差や不平等といったシンプルな理由で説明できるだろうと。

ところが実際にパパ活の現場に出向き、そこで「活動」している男女の話を聞いてみた結果、事前に予想していたものとはまったく違った光景が見えてきたのだという。

だが結論から先に記しておくと、私にはその部分が理解できなかった。


 確かにパパ活の世界は、男性から金銭的援助を受ける見返りとして、女性が自らの時間と肉体を提供するという、愛人契約や援助交際と同列の世界であることは事実だ。
 しかし、そこは恋愛や結婚に関する既存の制度や規範によって苦しめられている男女にとって、「ある種の希望」を感じさせられる世界であった。
 それと同時に、既存の制度や規範を越えた先に待ち構える「ある種の絶望」を肌身で感じさせられる世界でもあった。(「はじめに」より)

具体的にいえば、上記の「しかし」以降の考え方が分からなかったのだ。著者を否定するという意味ではなく、緻密な取材によって「パパ活に関わる人々」の実態が生々しく浮き彫りになっているからこそ、彼らが考えていることの不可解さが際立ってしまったのだ。少なくとも、私の中では。

彼らにまつわる希望と絶望をうまく描き出すことができれば、現行の恋愛規範や結婚制度に適応できずに悩み、苦しんでいる多くの人たちの役に立てるのではないだろうかと著者は考えたそうだ。また、それが人間関係やコミュニケーションのあり方を捉えなおすひとつの契機となりうるのではないかとも。

ただ、「だからなぜパパ活なのか」が分からない。私の頭が固すぎるのかもしれないが、ここで取材されている人の言葉には、うなずけるものがほとんどなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中