最新記事

トルコ

サウジ記者殺害でエルドアンに千載一遇の好機が

ERDOGAN WILL NOT WASTE HIS LEVERAGE

2018年11月13日(火)16時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

「計画殺人だ」とここぞとばかりに強弁を張ったエルドアン Tumay Berkin-REUTERS

<カショギ殺害事件の「決定的な証拠」を武器にアメリカとサウジアラビアに揺さぶりをかける>

10月23日のトルコ国会演説で、レジェップ・タイップ・エルドアン大統領はジャマル・カショギ殺害を「計画殺人」と糾弾しながらも、トルコ当局が握っているという情報を洗いざらい公表することはなかった。

殺害現場の録音音声や映像の問題には触れず、ある米当局者の言葉を借りるなら「鉄ついを下す」ことを控えた。全ては、サウジアラビアとアメリカが事前に了承していた範囲だった。

実際、エルドアンは21日にドナルド・トランプ米大統領と、その前の19日にもサウジアラビアのサルマン国王と協議していた。演説当日の朝にはジーナ・ハスペル米CIA長官がトルコの情報当局トップと打ち合わせ、演説直前のエルドアンとも協議した。

もう少し時間をくれ、詳細の公表は捜査の完了後にしてくれ。アメリカもサウジ側も、そう要請してきた。エルドアンは二つ返事で応じた。この問題に関しては時が自分に味方することを、十分に承知していたからだ。

トルコの元国会議員で今はアメリカのシンクタンク民主主義防衛財団に所属するアイカン・エルデミシュに言わせれば「カショギ事件でエルドアンは、国際社会で最高に役立つものを得た」。つまり「貸し」である。また外交筋によると、エルドアンの最大の願いはサウジアラビアのムハンマド皇太子の勢いを止めることだ。「サウド王家内部の権力構造再編を本気で進めたがっている」と、ある米政府高官は言う。

それだけではない。エルデミシュによれば、サウジアラビアとエジプト、そしてアラブ首長国連邦(UAE)の連携を弱めることも狙っている。エルドアンは最近、「トルコはイスラム世界を導くことができる唯一の国」だと述べている。そうであれば、アラブの盟主を自任するサウジは邪魔な存在だ。

もちろん、エルドアンがカショギ殺害を人権無視の蛮行と非難するのはお笑い草だ。彼自身が堂々と「人質外交」をやっているからだ。ようやく解放したとはいえ、アメリカ人牧師アンドルー・ブランソンを「テロ容疑」で長く拘束していた。反政府的なジャーナリストらを多数収監してもいる。

しかし今のエルドアンには、カショギ殺害の決定的証拠という強力な武器がある。トランプ米政権は当初、ムハンマドが「事態を乗り切る」ことを願っていたが、今はトルコ側の握っている証拠次第で皇太子失脚もあり得るとみているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

グーグルマップ、「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に変

ワールド

サウジ、外国人投資規制を緩和 2大聖地に不動産持つ

ビジネス

ESGファンドへの資金流入、2024年は半減=モー

ワールド

トランプ米大統領、国境警備予算の増額を議会に要請
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」で記録された「生々しい攻防」の様子をウクライナ特殊作戦軍が公開
  • 4
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 5
    オーストラリアの砂浜に「謎の球体」が大量に流れ着…
  • 6
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 7
    日本や韓国には「まだ」並ばない!...人口減少と超高…
  • 8
    「これは無理」「消防署に電話を」出入口にのさばる…
  • 9
    天井にいた巨大グモを放っておいた結果...女性が遭遇…
  • 10
    AI相場に突風、中国「ディープシーク」の実力は?...…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 7
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 8
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 9
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 6
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 7
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中