メルケル時代が終わる理由は、難民・移民問題ではない
Angela Merkel Failed
メルケルは現実主義を前面に出し、断定的な論陣は張らない政治家だ。ヘルムート・コール元首相をはじめとするCDUの歴代党首が、時に感傷的に欧州観を語ったのとは対照的だ。
そんなビジョンある指導者という在り方をメルケルが避けてきたせいで、ユーロ危機と「移民危機」を経た後のEUを立て直すことは一段と困難になった。ちなみに、移民危機という言葉は間違いだとフランスのエマニュエル・マクロン大統領も指摘している。危機に陥ったのは欧州の政治秩序だった。
逃した最後のチャンス
共通通貨を持ち、国境もないに等しい1つの国のようなEUは、2015年の危機の後にもその状態を維持することが大きな課題となった。だが難民対策も「欧州共通」で、というメルケルの努力は一段と困難になる。民衆の外国人恐怖症に付け込むハンガリーのオルバン・ビクトル首相やオーストリアのセバスティアン・クルツ首相、イタリアのマッテオ・サルビニ副首相といった政治家が台頭したためだ。
それでもメルケルに最後のチャンスが訪れた。マクロンが昨年、欧州統合推進のため仏独協力案を打ち出したのだ。
今年に入って選挙で苦戦したメルケルはSPDとの連立を強いられたが、2月までSPD党首だったマルティン・シュルツはマクロンの構想に賛同していた。そこでメルケルは、欧州議会の経験も豊かなシュルツと協力してEU再生計画を示すこともできた。ドイツの二大政党の協調を示す動きになっただろう。
だが、これは実現しなかった。マクロンの主張は先細り、メルケル寄りだったオランダのマルク・ルッテ首相までEUの縮小に言及した。いつの日かドイツ国民は、メルケルがドイツ経済を強みとして大胆に行動すべきだったと批判するかもしれない。
国民は問うだろう。国家の中枢に卓越したテクノクラートがいることは結局、民主主義を損なったのではないか。民主的な選択肢を実感するためには政党の乱立も有用ではないか、と。
メルケルには慎みがあると国民は受け止めている。今の世界の一部指導者とは実に対照的だ。しかし、慎みだけでは解決しない問題は多い。
<2018年11月13日号掲載>
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