漢人の天国、少数民族の地獄。「多様な」街 南新疆カシュガルレポート
都市生活者だけでなく、遊牧民たちの生活も破壊されている。写真に写っているのは、近年続く地震をきっかけとして政府が遊牧民のために新たに建設し無料で提供している住居だ。遊牧民たちは元々住んでいた家を取り壊され、見るからに安普請のこの建物に住むことを強制されているという。
壁が薄く寒暖の差が激しいこの地にまったく適さないという問題に加え、自分たちの家畜に十分な牧草地を確保するため、お互いに距離をとって住んでいた遊牧民たちの伝統的な生活習慣は、こうした住居群への強制集住で破壊されかけている。
それ以外にも、長いあごひげ、新生児のイスラム的な名前、ブルカの着用、ラマダン中の断食、イスラム服を着てバスに乗る、18歳未満がモスクで祈る事などが極端化=過激派化の兆候として禁止されている。また従来行われてきた中国語とウイグル語のバイリンガル教育が形骸化させられ、外国居住者はビザの更新に必要な手続きを妨害され強制的に帰国させられるとされる。
そして、急速にこうした抑圧的政策を代表する存在になりつつあるのが「再教育キャンプ」だろう。
当初人権団体などが存在を伝え、脱走者によればイスラム教徒への豚肉食強制や「食事の前に『党に感謝!母国に感謝!習主席に感謝! 』と唱えないと食事をとらせないなど身体的・精神的な虐待が行われているとされるこれらの施設には、情報によって異なるものの複数の施設の合計で100万人が収容されているといわれ、また特に反政府的であったわけでもテロと関連があったわけでもない人が大多数とされる。
従来関心が薄かった国際社会ではあったが、おそらく米中の貿易面での軋轢といった背景もあり、欧州議会 や国連の人種差別撤廃委員会もステイトメントを出すなど、ここ数か月で非難の度合いを強めている。
特に10月4日にペンス米副大統領がハドソン研究所で行ったスピーチは、それまでのパートナーとしての期待を残したものから、多少の猶予は残しながらも相いれない国としての非難に軸足を移したようにも見える。
それに対して中国の外交部報道官は「根拠がない」 と否定するなど応酬が続いているが、その一方、新疆自治政府は10月9日、「新疆维吾尔自治区去极端化条例」の改正を公布し事実上、再教育施設の存在を認めている。
中国は01年に「少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない 。」とした内容を含む国際人権規約を批准しているはずだが、現実にこの地で行われている事はそれと大きく矛盾しているようにしか見えない。しょせん外面だけの事かもしれないが、国内での法的な建付けはどうなっているのだろう。