シンガポール、次期首相最有力候補にヘン財務相 「リー王朝」批判避ける狙いも
与党支持者たちとの撮影に応じ、親しみやすさを印象づけるリー・シェンロン首相だが…… Edgar Su/REUTERS
<外国為替取引額で日本を上回り、世界の金融センターとして活況を呈するシンガポール。だが政治に関しては「明るい北朝鮮」と言われる独裁が続いている>
シンガポールの与党「人民行動党(PAP)」はこのほど開催した中央執行委員会で同党書記長でもあるリー・シェンロン首相を支える重要ポスト「書記長第1補佐」にヘン・スイキャット財務相を抜擢する人事を発表した。党ナンバー2の同ポストはリー首相の後継首相の最有力候補者が就任する地位とされ、2021年までに実施が予定される次期総選挙前後にリー首相は退任する見通しで、このままいけばヘン氏が同国第4代首相に就任することが確実視されている。
シンガポールは1965年の独立以来これまで3人の首相が誕生している。初代が建国の父と言われるリー・クアンユー首相、2代目がゴー・チョクトン首相、そして3代目の現職がリー・シェンロン首相だ。現在のリー・シェンロン首相は初代リー・クアンユー首相の長男であることから、シンガポールはリー一族による「王朝支配」との批判もある。親子による世襲的政権運営や報道・集会・表現の自由などを厳しく制限する社会規制、さらに国会議席89議席のうち与党PAPが実に83議席を占めるという事実上の1党独裁政権であることなどから東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などからは「明るい北朝鮮」と揶揄されることも多い。もっともこうした呼び方には、経済的に発展した優等生シンガポールに対する他のASEAN諸国からの妬みや恨みも込められているという。
次期首相候補にリー一族以外の政治家であるヘン氏が抜擢されたことは、こうした世襲的な政権運営への批判を避けることも狙いとみられている。
若返りと同時に政策の継続性優先
11月23日に開催されたPAPの最高意思決定機関である中央執行委では、世代交代を図るためにメンバーの刷新を断行。首相を補佐してきた書記長第1補佐のテオ・チーヒエン、同第2補佐のターマン・シャンムガラトナムの両副首相が退任、後任の第1補佐にヘン財務相、第2補佐にチャン・チュンシン貿易産業相が就任した。2人とも次世代のシンガポール政治家、そして次期首相候補として以前から名前が取りざたされていた人物である。
リー・シェンロン首相はヘン財務相が最側近として自らを支える第1補佐に選出されたことを受けて「若手が数カ月かけて議論した結果、次の指導者に相応しいとヘン氏を選んだ。この若い世代の決定を支持したい」とのコメントを発表。
同時に近く内閣改造に踏み切る意向も示しており、新内閣でヘン財務省を内閣のナンバー2である副首相に就任させる可能性が高く、ヘン財務省は党内ナンバー2に次いで閣内でも序列第2位となり、次期首相としての地位は万全となる、とみられている。
ヘン財務相はシンガポール金融通貨庁(MAS)の長官から2011年に選挙で当選、政界入りした。教育相を経て財務相として国家予算編成の重責を担い、リー・シェンロン政権を支えてきた。
ヘン財務相はリー・クアンユー元首相の首席秘書官を務めていたこともあり、いわばリー首相親子の側近であり、次期首相としてリー政治を継承することは間違いないとされる。そうした経歴と「リー一族への忠誠心、貢献度」が評価された抜擢とみられている。