最新記事

歴史

BTSはなぜ「原爆Tシャツ」を着たのか?原爆投下降伏論のウソ

2018年11月15日(木)13時00分
古谷経衡(文筆家)

【2】本土決戦のためのソ連中立維持

1941年12月8日、日本機動部隊の真珠湾奇襲により、第二次大戦は世界規模に拡大した。遡ること1941年4月、日本とソ連は「日ソ中立条約」を締結。5年間の相互不可侵条約体制で後顧の憂いを絶った日本は、南方作戦に代表される「南進」に踏み切ったのである。

しかし1943年にイタリアが枢軸から脱落、1945年5月にはドイツが無条件降伏すると、枢軸で残るのは日本ただ一国となり、戦局の行方は誰が観ても絶望的であった。ソビエトは1945年2月、クリミア半島の保養地・ヤルタで連合国首脳と会談を開いた(米英ソ三巨頭首脳会議)。このとき取り決められたのは「ドイツ降伏後、三ヶ月以内にソビエトは日本に宣戦布告する」という内容であった。所謂「ヤルタの密約」である。

が、日本側はこの「ヤルタの密約」を全く知らなかった。1945年4月1日、米軍作戦部隊50万人が沖縄に殺到。同5月末には首里の日本軍司令部が陥落し、同6月23日、摩文仁に追い詰められた日本第32軍は玉砕した。このような絶望的な状況の中、大本営と政府は、「本土決戦」の準備とその完遂にますます意を堅くした。

日米の戦いはガダルカナル、サイパン、沖縄、硫黄島など島嶼を巡る争いであった。1945年の段階で、満州を含む大陸に200万人以上の兵力を有する陸軍は、「日米の本格的会戦はまだ行われて居ない」と主張して、「本土決戦は、最初の一回だけなら必ず勝てる。その勝機を利用して我が方に有利な講和条件を見いだす」という理屈に傾いていた。これを「一撃講和論」と呼ぶ。

そのためには、ソビエトの対日参戦だけは絶対に防止しなければならない。ソビエトに参戦されると、防備が手薄な満州・朝鮮が失陥する事になり、本土決戦の目算が全てご破算になる。つまり「本土決戦」の最低必要条件は、ソ連が中立状態を維持してくれること。この一点に尽きたのである。

【3】日本降伏の決定打となったソ連参戦

1945年5月に行なわれた最高戦争指導会議では、本土決戦の完遂を前提とした対ソ外交の要点を、以下の三点として明記している。


1)ソビエトの参戦防止

2)ソビエトの好意的中立の獲得

3)戦争終結に関しソビエトをして日本に有利な仲介をさせる

出典:ドキュメント太平洋戦争「一億玉砕への道」(NHK取材班、角川書店)

現在から振り返ると、全く日本側の楽観と虫の良い外交方針であるが、当時の戦争指導者達の素直な対ソ戦略の皮膚感覚であった。しかしこの日本側の期待を裏切るように、1945年2月の「ヤルタの密約」でソ連対日参戦は決定事項であったのは既に述べたとおりだ。また恐らくそのもっと前から―すなわち、ソ連が対独戦を有利に進めていた1944年の段階から―スターリンの頭の中で、対日宣戦布告は既定路線であっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港のビットコイン・イーサ現物ETF、来週取引開始

ビジネス

氷見野副総裁、決定会合に電話会議で出席 コロナに感

ビジネス

ホンダ、旭化成と電池部材の生産で協業 カナダの新工

ビジネス

米家電ワールプール、世界で約1000人削減へ 今年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中