安倍政権、消費増税時の家計負担を大幅軽減 万全強調に「何のための増税か」との声も
政府は増税実施最優先、財政配慮は二の次
これを過去の増税時と比較すると、家計の負担額は格段に小くなる。1997年の5%への引き上げ時には増税分のほかに所得減税の打ち切りなどの負担増も重なり、ネットで8.5兆円の家計負担が生じた。14年の8%増税時には、年金額のマイナス改定が重なって負担増は8兆円だった。
経済官庁のある幹部は「14年の増税時は、その後の消費回復に時間がかかった。政治サイドからは、対策規模が足りなかったからではないかとの声が多い」と話す。
政府内では前回の苦い記憶から、今回は増税規模を十分補える厚めの対策が必要との声が、当初から強まっていた。
特に2019年は、貿易摩擦の影響や東京五輪需要の剥落など、景気へのマイナス要因が予め予想される。先の経済官庁幹部は「増税前後の消費平準化にとどまらず、実質的な所得目減り分を補完するため、万全な対策を打つことが必要」との認識を示す。
また、別の幹部は「消費税が無事に上がるかどうかが問題。対策は一時的なものであり、増税とはタイムスパンが違う」と指摘。負担軽減策が膨らんでも、恒久的な増税を実施できるなら、その増収効果は長期的に財政をサポートする効果を持つとの見解を示している。
安倍晋三首相が出席した10月5日の経済財政諮問会議では、万全な増税対策を活用して、デフレ脱却につなげたいと期待する声が強まった。
民間議員からは「機動的な経済運営が非常に重要」「総合パッケージとして推進していくことが必要だ」 「強力な需要喚起策をパッケージとして展開すべき」といった発言が相次いだ。
過剰対策との見方も
しかし、こうした対策の大規模化に疑問の声も上がっている。
第一生命の熊野氏は、今回の増税対策の結果、2.2兆円と過去の4分の1程度の負担に抑制でき、ポイント還元策などの追加対策が盛り込まれなくても「景気は腰折れしない」と分析。大規模に膨らむ対策メニューは「過剰対策になりかねない」とみている。
BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏も「財源がないまま膨らんだ社会保障費の財源をねん出するため消費増税を行うのであり、ある程度の消費の落ち込みはやむを得ないはず」と指摘する。
そのうえで「あまり大きな対策を行うと、景気対策が止められなくなり、歳出が膨らんで、何のための増税だったか分からなくなる」と述べている。
増税に伴う負担軽減策によって、景気腰折れの回避を優先課題に掲げる政府・与党。他方で過大な負担軽減策を打ち出せば財政や社会保障制度の持続性に疑問符がつきかねないと、複数のエコノミストが指摘する。
将来不安が払拭されなければ、個人消費への「抑制効果」が働き続け、それが消費刺激策をさらに誘発するという悪循環に陥りかねないとみているためだ。
世論がどちらの見解に軍配を上げるのか、その動向によっては、今後の消費税対策検討の行方にも大きな影響を与えそうだ。
(中川泉 編集:田巻一彦)
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