最新記事

ブラジル

「ブラジルのトランプ」極右候補が大統領に選ばれた理由

Far-Right Jair Bolsonaro Elected Brazil's President

2018年10月29日(月)19時20分
ジェイソン・レモン

大統領選挙の投票日、支持者に手を振っていた極右候補ボルソナロ(10月28日、リオデジャネイロ) Ricardo Moraes-REUTERS

<汚職と失政の象徴となった左派政党に背を向け、ドラスティックな変化を求めた有権者がいやいやながら選んだ「もう1つの選択肢」>

ブラジル大統領選の決選投票が10月28日に行われ、極右のジャイル・ボルソナロ下院議員が左派のフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長を破って当選した。

開票率92%の時点で、得票率はボルソナロの55.6%に対してアダジは44.3%だった。ブラジルでは投票は義務となっており、約1億5000万人が票を投じたことになる。

マスメディアから「ブラジル版トランプ」とか「熱帯のトランプ」と呼ばれるボルソナロは7日の第1回投票の後、支持を大きく伸ばした。女性蔑視や同性愛者への嫌悪、人種差別をむき出しにした発言を繰り返してきたにも関わらず、決選投票を前にアダジとの支持率の差は10%を超えていた。

ブラジルの政府機関に関する情報収集や監視を行っているジョタ社の北米ディレクター、アンドレア・ムルタは本誌に対し、ボルソナロの勝因はいくつかあるが、アダジを擁立した労働党(PT)を支持する人々とそうでない人々との間の分断が深まっていることもその1つだと語った。

ムルタは最近の研究をいくつか挙げ「この数年、ブラジルでは『ペティスタ』(PT支持者)と『反ペティスタ』との分断が深まってきた。今は反ペティスタ陣営のほうが優勢なようだ」と述べた。「経済の現状と(高い)失業率に鑑みればそれほど驚くことではない」

労働党=汚職のイメージ

またムルタはこうも述べた。「景気の下降局面では、有権者は最も最近政権を握っていた者たちに厳しい傾向がある」

ブラジル経済は03年から8年間にわたったルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領の時代に「黄金期」を迎え、ルラは高い支持率を誇った。ルラの下でブラジル経済は急速な発展を遂げ、多数の国民が極貧状態から抜け出すことができたが、一方で汚職スキャンダルにより与党PTのイメージは悪化した。ルラの後継者でブラジル初の女性大統領となったジルマ・ルセフは16年、選挙資金をめぐる不正で弾劾され、ルラも汚職罪で収監されている。

支持者や多くのアナリストは、ルセフやルラにかけられた汚職の容疑は左派指導者の信用を失わせるためのでっち上げだと主張する。にもかかわらず、スキャンダルにより多くのブラジル人が、PTに関わったあらゆる人を疑いの目で見るようになってしまった。

「ルラとそれに連なるPTは汚職と失政の象徴になった。10年以上にわたって与党だったPTを、多くの国民はブラジルが抱える問題の元凶だと見ている」と、大西洋協議会ラテンアメリカセンターのロベルタ・ブラガは本誌に語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中