出版業界を席巻するケント・ギルバート現象の謎
加えてもう1人、「転向」に影響を与えた人物がいる。保守論壇の重鎮で外交評論家の加瀬英明(81)だ。90年代に植田がギルバートを引き合わせ、共著を出して以来の縁である。「長年、ケントに忍耐強く説いていった。彼は真面目なので、話を聞いてくれた。われわれがケントを変えたんだ」
加瀬は安倍政権とも関係が深い日本会議の代表委員や「つくる会」の顧問、歴史問題の否定を訴える「慰安婦の真実」国民運動や「南京事件の真実を検証する会」などの保守系市民団体の会長も務める。彼はこうも言う。
「バテレン(筆者注・戦国時代のキリシタン)を改宗させたようなものだ。最初はヘンリー・ストークスを10数年かけて『調教』したのだが、ケントはその次だった。最初はいずれも、慰安婦や南京の問題について、日本が(悪事を)やったと考えていたんだ」
ヘンリー・ストークスとは、フィナンシャル・タイムズやニューヨーク・タイムズの東京支局長も歴任した知日派のイギリス人ジャーナリストだ。近年は靖国参拝を行ったり、加瀬との共著や『大東亜戦争は日本が勝った』(ハート出版)といった著書を刊行するなど保守派寄りの姿勢が目立つ。
「高齢で体調がすぐれないストークスに代わって、最近のケントは著書を多く出して頑張っている。『転びバテレン』だからこそ、彼は自分でしっかり勉強をしているみたいだ」(加瀬)
もっとも、言論人ギルバートを生んだ立役者は植田と加瀬だけではない。近年の著作のほぼ全てに携わり、イデオロギー面でのサポートも行ってきたスタッフが存在するのだ。
【参考記事】データで読み解くケント・ギルバート本の読者層
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