最新記事

日本文学

村上春樹が今度こそノーベル賞を取るために

2018年10月24日(水)18時10分
フローラン・ダバディ

なぜ拉致を題材にしてまで、村上春樹はノーベル賞をとらなければならないのか、という声も聞こえてきます。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は村上氏のファンタジーと同類でしたが、背景にいじめ問題や日本の軍国主義がさりげなく入っていたことを思うと、やはりノーベル賞候補だなと納得します。

映画に例えるなら、長年ハリウッドの娯楽映画大王だったスピルバーグ監督はなぜ『シンドラーのリスト』を作ったのでしょうか。それは娯楽のレッテルが貼られたままで終わりたくない、違うジャンルにも挑戦できる、もっとできる、と思ったからです。スピルバーグはSF映画の専門家だから認められたのではなく、天才監督だから成功し、たまたまそのジャンルがSFだっただけです。『シンドラー』はスピルバーグが生まれ変わるきっかけになりました。村上春樹も変貌を成し遂げられるでしょうか!

海外でも尊敬されている稀有な日本人

しかし、まず出直さなければならないのは日本のマスメディアでしょう。「村上は今年こそ受賞か!」「いや辞退だ!」という面白くない話題で盛り上がる日本のワイドショーや週末のニュース・バラエティ。せっかく大きな影響力を国内に持っているのですから、もう少し面白い視点で企画を作ってもいいのではありませんか。私は常々、日本の若い世代の教養や文化レベルが低すぎると感じています。これは質の高い番組や記事を届けないマスメディアの責任だと思います。私は、日本で約15年間スポーツや文化の番組を制作してきたテレビマンとして、また村上春樹ファンとして、日本人3人目のノーベル文学賞受賞をそう簡単に諦めたくないのです。

ノーベル賞をオリンピックに例えるなら、日本はそろそろ、文学や映画という人気競技で金メダルを取りに行く時期だと思います。頑張れば取れます。そのために日本政府もメディアも、もちろん世論も、その大切さを理解しなければなりません。海外で尊敬されている日本の現代文化人はそれほどいません。村上春樹ほどの逸材はもう後50年も二度と現れないかもしれません。後もう少しで手が届くのです。チャンスは明らかに今!です。

davadi-prof03.jpgFlorent Dabadie
1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街

ビジネス

インフレ率低下、持続可能かの判断は時期尚早=ジェフ

ビジネス

インフレ指標に失望、当面引き締め政策が必要=バーF

ビジネス

物価目標達成に向けた確信「時間かかる」=米アトラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中