村上春樹が今度こそノーベル賞を取るために
『1Q84』では 宗教問題や中流階級の孤独、恋愛の難しさを背景にあらゆる個性的なキャラクターが登場します。 そして人気漫画やドラマのようなオーラを醸し出します。例えば、娘さんが30代のときにエリート官僚の夫からDVを受けて自殺してしまった老婦人が出てきます。そのマダムは麻布台の豪邸のベランダに、観葉植物に囲まれて暮らしています。伊丹十三監督の映画から出てきたキャラクターのようです。カラフルな演出ですが、とても深刻な社会問題を扱っています。
村上春樹氏には、ノーベル文学賞を自身の最大の目標にするぐらいの野望を持って欲しいです。日本のお茶の間(テレビのワイドショー、週刊誌、スポーツ新聞)や学校、大学でも、もっと村上春樹を話題にするべきです。必要なのは、建設的なディベートです。村上春樹はノーベル賞を取るべきか、ノーベル賞を取るにはどんなテーマの小説を書くべきか、といった議論です。大江と川端の時代と比較したり、海外の村上読者を取材したり、反対意見も紹介して欲しいのです。
フランスの最も権威ある文学賞の1つであるゴンクール賞を受賞した「フランスの村上春樹」、ミシェル・ウエルベックの作品も、フランスでは賛否両論がありました。しかし、高級紙も週刊誌もマスメディアも、誰もが彼の次の偉大な挑戦(権威ある学術団体アカデミー・フランセーズ入り、など)を熱く語り続けます。
才能ある作家は歴史を書くべき
日本は、文学に対する情熱を失ったのでしょうか?
ノーベル文学賞を受賞したペルーの小説家、バルガス=リョサが20世紀のいくつかの南米軍事独裁政治について小説を書いたように、村上春樹は北朝鮮の拉致問題を小説に書き残すのが最も大切な使命だと思っています。歴史や政治小説の魔法の一つは、なかなかアクセスできない場所や時代に読者を連れて行けることです。もちろん、膨大なリサーチ力が必要ですが、村上春樹の知名度とネットワークがあれば、日本政府も関係者も協力するでしょう!
北朝鮮の核問題は知っていてもいまだ海外で知られていない拉致問題に光を当てるのは有意義な挑戦です。何より小説として、村上ワールドにぴったりな背景だと確信しています。
政府や世論が求めるからではなく、村上さんの才能だから書くべきだと思います。ノーベル賞受賞作は人類に貢献するものでなければならない、という先入観がありますが、ノーベル賞の設立趣旨も変わってきていて、今は必ずしもそうではありません。一方、才能ある小説家は、社会現象や歴史的出来事を書くべきで、そのためにちゃんとしたビジョンを持たなければなりません 。