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ポスト「キッシンジャー秩序」を狙った習近平の対外戦略

2018年10月19日(金)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国の習近平国家主席 Nicolas Asfouri/REUTERS

習近平はキッシンジャーが作ってくれた親中路線の世界的影響が高齢により薄れるのを防ぐために、中央外事工作領導小組を委員会に格上げして対外プロパガンダを強化。日本に関しては自公幹部を狙えと指示している。 

「一つの中国」論を広めてくれたキッシンジャー

毛沢東は1970年12月18日、「中華人民共和国」が(蒋介石が率いる)「中華民国」に代わって国連に加盟すべく、『中国の赤い星』などの著書がある親中派ジャーナリストのエドガー・スノーを使って、「ニクソンを歓迎する」と伝言した。それを受けて当時のアメリカ大統領ニクソンは1971年4月16日、「米中国交樹立が長期目標となる」と発言して訪中意向を表明した。ニクソン政権のキッシンジャー(当時は国家安全保障問題担当大統領補佐官。1973年9月~77年1月:国務長官)は1971年7月9日に、いわゆる「忍者外交」で極秘訪中。周恩来と機密会談を行なっている。ここで約束されたのが「一つの中国」だ。

この足がかりを得て、1971年10月25日、中華人民共和国が「中国」を代表する唯一の国家として国連に加盟し、「中華民国」が国連を脱退した。キッシンジャーの忍者外交に驚いた日本の田中角栄(元首相)が慌てて訪中し日中国交正常化を果たしたことは、今さら言うまでもないだろう。

日米が「一つの中国」を認めたことにより、「一つの中国」論は、まるで「この世の原則」であるかのように全世界を席巻し、中国に都合のいい国際秩序が形成されていった。

ここで注目すべきは、毛沢東と仲が良く、完全に中国共産党に洗脳されたエドガー・スノーにしても、どっぷり中国共産党に取り込まれてしまったキッシンジャーにしても、中国は常に「特定の人物」を選んで、まるでその人物を「武器」のように使って国際秩序さえ変えていくという点だ。

ただし1923年5月生まれのキッシンジャーは、さすがに95歳を超えて、その影響力は薄まりつつある。特にトランプは大統領当選後、政権誕生前夜から「一つの中国」原則に疑義を挟むような発言をしているので中国は警戒し、キッシンジャーに代わる新しい、中国にとって最も好ましい方向に国際秩序を誘導していく必要に迫られた。

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