タイ観光地ピピレイ島、立ち入り禁止延長 環境破壊の生態系回復進まず
フィリピンのボラカイ島も観光客禁止に
タイ政府によるこうしたピピレイ島の観光客制限による環境回復はフィリピンでも同様の措置が取られている。ルソン島にある首都マニラから南へ約300キロあるボラカイ島は2018年4月26日から観光客の立ち入りが一切禁止されている。ボラカイ島は約10年前までは年間約2万5000人が訪れる観光地だったが近年は激増、2017年には年間200万人が訪れる状態となっていた。観光客の大半は中国人と韓国人で砂浜や宿泊施設でのマナー違反やトラブルも多かったという。
人気観光地のため狭い砂浜にホテルや飲食店が乱立、その大半が違法建築で下水や汚水が砂浜、海に直接垂れ流しの状態が続いていた。
2018年2月にはそうした環境悪化に対してドゥテルテ大統領がボラカイ島の海岸を「下水のたまり場みたいだ」と酷評、政府が対策を講じるために4月26日から最大で半年間の立ち入り禁止となった。
同島へは空港のある近くのパナイ島からボートで渡航するしかないためパナイ島の検問所でボラカイ島の島民であることを示す身分証明書を提示しない限り渡航出ない措置が取られている。
渡航禁止期間には約900軒の違法建築物の撤去と同時に排水設備の整備が進められており、順調に行けば10月末の制限期間終了で渡航が再開される可能性がある。しかし地元政府や観光当局では渡航する観光客の数を制限して環境保護は今後も進めるとしている。
東南アジアの有名な観光地、特にビーチを抱えるリゾート、観光地はいずれもピピレイ島やボラカイ島と同じような問題、つまり殺到する中国人を中心とする海外の観光客に伴う基本的なマナー問題、ゴミや下水問題、そしてサンゴ礁や生態系への深刻な影響という課題を多かれ少なかれ抱えている。
その一方で観光産業、観光収入への依存度が極めて高いことに伴うリスクが存在することも事実で、ボラカイ島では観光客立ち入り禁止措置で約3万人の島民が失業することから反対デモが起きたほどだったという。
「観光優先か自然・環境保護優先か」。東南アジアの主要な観光地は難しい選択を迫られている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら